日本食材とインド料理が融合、11皿で巡るスパイスジャーニー
銀座[SPICE LAB TOKYO]でモダンインディアンキュイジーヌを味わう
銀座の街を見下ろすビルの10階にある[SPICE LAB TOKYO]。エレベーターを降りるとまず出迎えてくれるのはたくさんのスパイスたちのディスプレイ。その光景はまさにラボのようで、これから訪れる新しい体験への期待を否応なしに高めてくれる。
テジャス・ソヴァニシェフと山嵜和彦シェフ
[SPICE LAB TOKYO]は、2019年冬にオープンした、日本初のインディアンキュイジーヌレストランだ。
インドのラグジュアリーホテルブランド[The Oberoi]や[AMAN]ホテルのレストランでスーシェフを務め、コペンハーゲンの[noma]での修行経験もあるテジャス・ソヴァニシェフと、海外でのレストラン経験が豊富で日本の食材を知り尽くした山嵜和彦シェフがタッグを組み、互いのアイデアを磨き合いながら四季ごとのメニューを組み立てている。
インド料理はカレーだけではなく、スパイスは辛いものではない
[SPICE LAB TOKYO]ではインドを象徴する11のテーマを各皿に落とし込み、コース料理を通して食べる者をインドを巡る旅へと導いてくれる。そんなトリップ感溢れるコースの中から3品をご紹介しよう(2024年2月時点のメニューより)。
カディ&カチョリ。飾りのリーフ状のチュイルにもスパイスが練り込まれている
立体的で美しい造形の「カディ&カチョリ」。カチョリは西インド発祥のパイのようなさっくりしたストリートスナック。カディはべサン(ひよこ豆の粉)とヨーグルトを使ったシチューのような料理。両者を組み合わせることで「さっくり」と「滑らか」のコントラストが見事に生み出されており心地いい。冬の料理ということで、じんわりと身体が温まる感じがする。
「インドでは、カチョリの中身には玉ねぎやじゃがいもを使うことが多いですが、ここでは旬の下仁田ネギを使用しています。酸味をもたらすのはかぼちゃのピクルスで、これはインドではないアプローチです」とテジャスシェフ。
ペアリングとして合わせるのはすっきりした南インドバンガロール[グローパーザンパ]の白ワイン。インドでは近年ワインの生産が盛んになってきており、時に驚くようなワインに出会えることもあるという。
次に「ギーロースト はかた地鶏、ドーサ&バロティーヌ」。海沿いの美食都市マンガロールと豪華なスパイス使いで有名なチェティナードの料理を一皿の上で食べ比べることができる。
さっくりとしたドーサに包まれたギーローストはマンガロールの名物料理で、横に並ぶのはチェティナード流の複雑なスパイス感の味わえるチキンテリーヌ。見た目に楽しいだけでなく、同じ材料もスパイス使いによってこんなにも味わいが変わるのかと、一口食べてきっと驚くことだろう。
ドーサの中には溢れんばかりのギーローストが
ギーローストは玉ねぎをキャラメライズし、甘いのにピリリと辛い仕上がり。ビールによく合いそうだが、ここはスパイスとの相性を考慮してフランス[ドメーヌ・アンスト]の白ワイン「シャブリ シャティヨン」を合わせる。そのふくよかな味わいはブラックペッパーの効いたこの料理とよくマッチする。
テジャスシェフは「日本のスパイスに関する誤解を解きたい」と言う。
「スパイシーという言葉は日本では単に“辛いもの”と誤解されがちです。しかしスパイスには辛さ以外にも役割がたくさんあります。多くの種類のスパイスを使っていてもうまくバランスが取れていれば単に辛いものにはならず、食材の良さをうまく引き出すのです」
ビリヤニ。このレシピでは本来はカイマライスやシーラガサンバライスなどの短粒米を使うのだが、今回はバスマティライスを使用
毎回コースの最後に登場するビリヤニ。今回はちらし寿司のようなプレゼンテーションに。お米の上にいくら、えび、アサリ、イカなどが豪勢に盛られ、特別な気分にさせてくれる。出汁が染み込んだしっとりとした米は深川飯を思わせるが、当然スパイスは効いており食べ進めるとじわっと汗をかく。見た目に騙されることなかれ、味はしっかりビリヤニだ。
ビリヤニにも、貝類と相性の良い同じ白ワインをペアリング。ビリヤニにワインを合わせるというのは少し意外だが、アサリストック由来のうまみが口中で増幅されていき、なるほどと頷く。
「コースでは必ずビリヤニを提供しています。今回はケーララ州のマーピラと呼ばれるイスラム教徒の結婚式で作られる特別なビリヤニを参考にしました。山嵜シェフと相談し、日本の美味しい海鮮を使いたいと思った時にこのビリヤニが思い浮かんだのです」(テジャスシェフ)
東京でもビリヤニが流行っているけどインドにはまだまだ知られていないたくさんのビリヤニがある。これからもっともっと紹介していきたい、とテジャスシェフは意気込んでいる。
日本のインド料理観を覆すような新しいインド料理を
「東京ではフレンチ、イタリアン、中華などは進化し続けているのに、なぜかインド料理だけは時が止まっている」
インド人のオーナー夫妻は、長年の日本でのビジネス経験から日々そんな感覚を抱いていた。海外ではメジャーになりつつある新しいインド料理を日本で紹介したい。そうした想いからこのレストランの構想が始まり、ついにテジャスシェフに白羽の矢が立った。
日本の旬食材を知り尽くした上であくまでインド料理の調理法にこだわった新しい料理を提供する。そのためには、あくまで日本料理が専門でありながらも国際感覚を持ち、インド料理未経験の山嵜シェフの感覚や知識が実に役に立つという。
「日本の食材はそもそもが美味しいので、スパイスを多用する必要はありません。使い方に関してはやはり長年の経験がものをいう世界なので、四季折々の食材を邪魔せずに引き立てるための使い方をいつもテジャスと相談しています」(山嵜シェフ)
店内の家具やウェルカムプレートはインドの国鳥である孔雀のピーコックブルーを基調に空間が統一的にデザインされており、インドの伝統と日本の感性が重なり合う。夜は窓から銀座の街を見下ろしながらゆったりとした気持ちでインド料理を味わいたい。
上階のバー[THE GREY ROOM]も系列店で、スパイスを使ったカクテルやドリンクが充実しており、[SPICE LAB TOKYO]のキッチンで作るバーフードをオーダーすることも可能。記念日に限らず、ちょっとしたお祝いなどでカジュアルに使えるのも魅力だ。
季節ごとにメニューが入れ替わるため、2月29日からは新たに春のメニューが始まった。次はどんな景色が見られるのだろうか。
さらに、3 月 25 日(月)のホーリー初日に向けて、 2024 年 3 月 19 日(火)~24日(日)の6日間限定で通常のランチ・ディナーメニューと並行してホーリーを表現した『ホーリーセレブレーション』特別メニューが提供される。
ホーリーはヒンドゥー教の春の到来を祝う祭り。今年のホーリーは3 月 25 日(月)となり、インドや世界各地で盛大に祝われ、「ハッピー・ホーリー!」の掛け声と共に互いに色粉や色水を掛け合い、グジヤやタンダイなど特別なお菓子や飲み物が振る舞われる。
[SPICE LAB TOKYO]のモダンインディアンキュイジーヌを通して、春の到来をお祝いしてみてはいかが。
SPICE LAB TOKYO|スパイスラボトーキョー
東京都中央区銀座6-4-3 Gicros Ginza Gems 10F
TEL 03-6274-6821
WEB https://spicelabtokyo.com
IG @spicelabtokyo
営業時間や予約などの詳細はWEBおよびIGからご確認ください。Photo by Eri Masuda(写真 益田絵里)IG @massu_90
Interview & Text by Curry Philosopher(取材・文 カレー哲学)
Edit by Yoshiki Tatezaki(編集 舘﨑芳貴)
- Researcher of South Asian Food Anthropology
カレー哲学 / Curry Philosopher
カレー哲学者/南アジアの食の人類学研究者(の卵)。「日本にインドを作る」ことを目指すインド料理グループ「東京マサラ部」首謀。カレーにまつわる同人誌『カレーZINE』、インドパンのアナログカードゲーム『ATSU ATSU!! Parotta』、『TOKYO MASALAND』など、インド料理関連のプロジェクトを手掛ける。
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