スペインギフエロの最高級ハモンイベリコの真価とは

生ハムの伝道師と世界一の生ハム産地へ


RiCE.pressRiCE.press  / Mar 13, 2024

“本物の生ハム”を求めて降り立ったのは、スペインのギフエロ。マドリードから車で約4時間。標高1,000メートルを超えるこの地は、100年以上ハモンイベリコの産地として知られている。

この地の原産地呼称D.O.「ハモン・デ・ギフエロ(Jamón de Guijuelo)」に認定されている生ハムを製造するのが、生ハムブランド「BLACK TAG」の製造パートナーを組む[BEHER]だ。日本にスペインのイベリコ生ハムのおいしさを届けている生ハムの伝道師の山田悠平さんと共に訪れた。

世界が認める生ハムメーカー[BEHER]

1930年代に設立された[BEHER]。過去には、3年ごとにフランクフルトで開催される食肉の国際見本市「IFFA」において、世界で最も優れた生ハムとして称された*ことも。生ハム大国スペインのなかでも有数の生ハムを製造している企業なのだ。

*2007年と2010

現在は4代目が更なる美味しいハモンイベリコを目指し、希少な純血統種のイベリコ豚だけを17か月以上飼育し(通常のイベリコ豚は12か月)餌作りの農園から自社一貫生産で製造する取り組みを始めました。2022年に世界で初めてEU有機認証も取得し、世界一のハモンイベリコを作り上げるブランド「BLACK TAG」を立ち上げた。

年間6万頭の子豚が生まれる。血統の管理や製品の規格に合わせた餌の管理などを行うため、すべての豚は耳のタグによってトレーサビリティ管理されている

スペインの生ハム製造において養豚と加工製造は分業で行うことが多いなか、[BEHER]では一貫して行うことで高い品質の製品を生み出している。ギフエロにあるハモンイベリコの会社は500社にも及ぶが、自社放牧場で養豚をしているのは10社ほどというから、その貴重さは伝わるだろう。

BEHER]養豚場を管理するパウロ氏

豚たちは週齢ごとに部屋を移動し、えさや水場のサイクルなど放牧後の生活を想定しながら少しずつ動ける範囲を広くし、放牧に向けて慣らしていく。ストレスを与えないための工夫が随所にされていた。

放牧地の面積、どんぐりの木一本あたりの豚の頭数も厳密に管理することで、安定した品質と大きさの豚を育てることができる

イベリコ豚の産地で最も標高が高く、海から遠い場所にあるギフエロ村。乾燥した山脈からの風が吹き、寒暖差が激しい環境で育つことで、霜降りの脂を蓄え、上品な甘味とうまみになるという。生ハム作りに最適なイベリコ豚の生育地というわけだ。

のんびりどんぐり(樫の実)や野草を探す豚たち。人を恐れていないのはアニマルウェルフェアの証とも言える

最高のイベリコ豚を育てるために大切なのが樫の実。約3,500haにもなる広大なデエサ(樫の木の森林地帯)には、一本一本に十分な栄養がいきわたるよう間隔を保って樫の木が植えられている。

イベリコ豚の脂身には不飽和脂肪酸のオレイン酸とリノレン酸が含まれているが、実は豚自身では生成できない成分。オレイン酸とリノレン酸が豊富などんぐりをたっぷり食べることで最高のイベリコ豚になるというわけである。ちなみに、1ヶ月で50kgものどんぐりを食べるのだとか! 

生ハム製造工場へ潜入

今回は特別に普段は見ることのできない生ハムの製造工場も見学させてもらった。

衛生管理が行き届き清潔感のある工場で、職人たちの手により解体される。室温などの環境のほか、運搬のシステムは機械化されているが、解体においては職人の技が必要とされているという。

職人の鮮やかな手つきで解体される豚。大きく切り分けたあとは、分業により部位ごとに成形。生ハムとして使う後ろ足のほか、各部位は食肉となり、脂も化粧品などに使われ、余すことなく活用されている。

生ハムになる後ろ足をV字にカットする職人

生ハムになる後ろ足は、余計な部位をそぎ落とし、表面の脂や皮をトリミングし、長期間の熟成に耐えられるように職人が手作業で仕上げていく。

加工が終わると、それぞれの足に等級がつけられる。黒タグは100%イベリコ種かつ放牧地でどんぐりを食べて育った豚のもも肉でハモン・デ・ベジョータ・100%イベリコと呼ばれる一級品の証だ。

その後、塩漬け工程「サラード」に。積み重ねながら塩漬けにすることで、血や水分が抜けていく。冬が長く寒く乾燥しているギフエロでは、長い塩漬けは不要。その結果、塩気が控えめで独特の甘みを感じられる生ハムになるのだとか。

塩をブラッシングし、乾燥したら熟成工程へ。広く、天井の高い倉庫には、吊るされた生ハムがずらり。山脈の風が行き渡るように窓が開けられ、職人が熟成状況を見ながら位置や窓の開け閉めを行い3648カ月熟成される。熟成期間が長い方が上質と思いがちだが、純血統ハモン・イベリコの場合は3644カ月がうまみと香り、食感のバランスが最大化する熟成期間だという。

熟成が進むと、徐々に水分が抜けていき、もともと14kgくらいあった肉は、8kgにまで凝縮される。熟成過程では、表面にはフワフワの白カビやブルーチーズのような青緑色のカビが現れ、これにより独特の風味が生まれる。

熟成の間もカビを適度に落としたり、乾燥を防ぐために表面にイベリコ豚のラードを塗るなど職人たちの手間がかけられ、3年の時間を経て出荷へ。

本物の生ハムを日本の人たちにも知ってほしい

長い時間と手間暇をかけて作られたハモン・イベリコがこちら!

普段、日本で見慣れている生ハムとは見た目も違い、見るからにぎゅっと凝縮した様。濃い赤身と常温で溶け出す脂。表面に白い結晶(チロシン)が出ているものが美味しい証。

薄くスライスされたハモンは、口に入れると脂がじんわり溶け、旨みが爆発。噛むほどに塩気よりも肉の甘みが感じられ、もう一枚、もう一枚と止まらなくなる。

ちなみに、このカットの技術もおいしさを左右する。コルタドールという生ハムをカットする職人が技術を競い合う国際コンテストやギネスもあるというのだから生ハムの奥深さたるや。


普段見ることのできない生ハム、もといハモン・イベリコの製造の裏側を見せてもらったことで、伝統を守りながらも、誇り高き職人技と革新されていく技術が一体となり美味しいハモン・イベリコが作られていることを体感する経験となった。そして、山田さんが経験した「今まで食べていた生ハムは生ハムじゃなかったのか…!」にも強く共感。

「[BEHER]のように、ここまで徹底して、養豚から加工製造まで一貫している企業はほとんどないんです。だからこその本当の生ハムの美味しさが味わえると思います。まだまだ日本では、生ハムと一緒くたにされてしまい、どこのものなのか、どんな豚なのかまで知られているとは言えない状況ですが、一度食べてもらえればその繊細な味わいに感動してもらえるはず。ぜひ、本当の生ハム、ハモン・イベリコのおいしさを知ってもらいたいですね」(山田さん)

ぜひ、“本当の生ハムを体験してみて! 

[BLACK TAG]の生ハムが食べられるお店はこちら
生ハム専門店 イベリ家 新宿御苑(山田さんがオーナーを務める生ハム専門店)
hakbo(赤坂見附の居酒屋)
GOOD CHEESE GOOD PIZZA(渋谷と日比谷にあるチーズ専門店)
SALUMERIA 69(成城学園前の生ハム販売店)

山田悠平|Yuhei Yamada
PRADO代表。純血統ハモンイベリコを専門に、スペインのD.Oギフエロで約10年生ハム造りに従事。現在では餌作りから自社一貫でイベリコ豚を育て上げ、世界初EU有機認証を取得したハモンイベリコを現地パートナーと製造。熟成庫から空輸で販売する「BLACK TAG」を手掛ける。
Note https://note.com/yuhei_ji
Online https://blacktag.jp

Photo by Kenta Yoshizawa(@yoshiken531
Text by AI Hanazawa
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