シティライツ・レストラン
004 「優しい一面も持つ京都の冬の回顧録」
「底冷えの厳しい京都の冬ですら悪くない。そう思わせてくれる食文化が京都には多くあります」といった書き始めから、前回ご紹介した[天狗食堂]の牛すじカレーうどんに次いで冬の号第2弾を書き始めたつもりだったのですが。気づけば1か月以上も寝かせてしまい、もう春の到来を感じる3月中旬。完全に怠けておりました。
そんな冬との別れを感じた僕は「今年の冬の回顧録」として、もう一つの京都の冬の顔を紹介したいと思いました。物は言いよう。
もう一つ、とは言ったものの京都の冬を彩る食の情景なんて紹介しきれないほどありまして。生ビールが終わり(冬は一時的に生ビールの提供がストップになってしまうのです)燗に切り替えることで季節の変わり目を感じる[赤垣屋]を皮切りに、甘さたっぷりでどこか懐かしさを感じる[みやこ食堂]の肉鍋定食、寒さが背徳感を上回り飲みの後に食べに行ってしまう熱々な[おかる]のチーズ肉カレーうどん…。
芯から冷える寒い京都の冬を、心の底から好きだと思わせてくれるお店たちばかりです。
そんな中でも特筆したいのは、京都らしい牡蠣の在り方です。
牡蠣というのは僕にとって冬の味覚の代表格でして。定食屋さんで牡蠣フライを見ると冬の始まりを感じ、牡蠣系のメニューを目にした時にはここぞとばかりに頼んでしまう。今回はそんな「牡蠣から感じる京都らしさ」を紹介したいと思います。
[京味菜 わたつね](別名を[石臼蕎麦 わたつね])では、牡蠣がフライにされることは勿論、牡蠣ご飯というメニューも冬になると現れます。
ご飯を覆うほどの牡蠣たちが4~5個ほど、下には牡蠣の出汁を少し効かせた優しい色をしたご飯と、たまにおこげ。あくまでも牡蠣そのものが主役なんです、と言わんばかりの気の利いたご飯の味付け。
そして個人的にはこの牡蠣ご飯に「何を合わせるか」というのも毎度の楽しみ。[わたつね]はメニュー数が多く、麺から丼物や定食までと、いわゆる京都の「お食事処」のラインナップになっています。
前回牡蠣ご飯に合わせて注文したのは、鶏卵そば。やはり京都の温かい麺類は熱を閉じ込められるよう餡で閉じるメニューが多いですね。
この日は牡蠣を下で支えているご飯の佇まいと足並みを揃えるように、牡蠣ご飯に「添える」感覚でせいろ蕎麦にしました。ちなみに[わたつね]の蕎麦は十割もあれば、二八もあって、気分によって蕎麦の種類も選べます。あくまでこの日は牡蠣に花を持たせたかったので、二八のせいろにした次第でした。
聞いたところによると[わたつね]に蕎麦メニューが多いのは4代目の息子さんの影響で、彼は蕎麦が好きで[わたつね]を継がれる前に長野で蕎麦の修業をされていたとか。
牡蠣ご飯とせいろ蕎麦を交互に食べ進めていると、なんだか牡蠣といういわば冬のスタープレイヤーに対し、ご飯やお蕎麦と薬味、漬物たちは献身的なプレイヤーのように感じました。これは正に前回大会のカタールW杯でメッシ率いるアルゼンチンが優勝した、あの布陣すら思い起こさせる素晴らしいバランスです。
そして〆はもちろん蕎麦湯で。
肌を刺すような厳しい北風とは裏腹に、京都の冬の優しい一面を感じた心温まるお昼ごはんでした。
- Naru Developments
上沼 佑也 / Yuya Uenuma
1995年生まれ、埼玉県出身。中学から都内の学校に通っていたこともあり、約15年間は東京で時間を過ごし、2022年10月より京都へ移住。明治大学とカリフォルニア州立大学へ通い、卒業後はコンサルティングファームに就職。その後、Insitu(現Staple)に入社し、ホテルや飲食店、Coffeeブランドの立ち上げなどを経験したのち、Naru Developmentsに転籍。現在は旅館の企画開発や運営に携わる。趣味は食べ・飲みに加え、ランニング(太らないために)とサッカー(アーセナルファン)。湯呑や椅子などをはじめモノ好きで、リサイクルショップのオンラインストアをチェックすることが日課になっている。