シティライツ・レストラン
005 「求心力のある東京の中心地で、遠心力を放つレストラン」
僕は京都に住みながら仕事の都合で毎月東京に行っていて、そろそろ東京のレストランも紹介したいと思ったので、今回は東京らしさを存分に味わった食体験について書こうと思います。
この日は大学の同級生でもある吉田康太郎との「定例会」です。彼は新丸子の[BIG BABY ICE CREAM]や目黒の[NOON]といった飲食店を計3店舗経営している、気も話も合う友達です。そんな彼との定例会では、毎回僕らが気になっているお店へ行き、仕事の話から恋バナまでお互いのすべてを曝け出し、気づけば深い夜になっていることがとても多い会です。最近は[繁邦]、[boat]、[葡吞]、[V plus]、[locale](、[松屋])などなど、毎度[ラミティエ]と[スポルカチョーネ]は予約が取れず行けてないですが、一緒に色々と回りながら勉強しています。
今回の定例会では、今年3月にできた麻布台ヒルズにある[Pizza 4P’s]に行ってきました。以前から存じ上げていたレストランだったので、日本上陸の報を聞いた時はとても嬉しく、かねてから行きたいと思っていたのですが…本当に予約が取れない。今回は先輩のお力を借りて何とか席を確保してもらい、ようやく伺うことができました。
席に着くとテーブルの上に雑誌が2冊置いてあり、中を見てみるとこの雑誌こそがメニューであるという事に驚きました。
オーダーする前に「読み物としてのメニュー」にぐっと引き込まれ読み始めてしまい、注文するまでに時間を要してしまいました。「この時点でまた来たいと思うよね」と二人で感心し、食べ始める前から既に、幸福感に似た満足感を得始めました。
今回頼んだのは自家製ハム、海藻と菜の花のジェノベーゼ、ピザはハーフ&ハーフにできるという嬉しいシステムだったので、シグネチャーと冠されたブラータ・生ハム・ルッコラ、鮭の西京焼きときのこ、すじ青海苔とおかひじき・あさり、ラム肉とフェタチーズ・サルシッチャと4種類計2枚を頼んで、デザートのリコッタチーズケーキまでペロリというわんぱくなラインナップでした。
ブラータと鮭の西京焼きが隣り合わせで、ピザってハッピーな食べ物だなと思いました。
ハーブではなく海藻と菜の花の風味がしっかりしていて、とても日本的なジェノベーゼの虜になりました。
飲み物は上勝のRise&Winと作った「ピザ IPA」というものがあったのですがこの日は品切れで、白穂乃香の生ビールから始めました。食べ物も飲み物も個性的なメニューばかりで、今回頼み切れなかったもの達も楽しむべく、食べ始める前から次はいつ来ようかなと考えていました。
彼らのメニューは「ONENESSとは何か?」というレストランの本体ともいえる思想を綴るところから始まり、隣のぺージには「なぜONENESSを日本で?」という事が書かれています。ONENESSとは「地球から人へ、人から人へ、地球から自然へ、自然から人へ。」という説明から始まっており、「すべてが等しく繋がり、その繋がりに気づいた時に生まれる無条件の感謝の気持ちとその先にある思いやりを持った人が増えれば、より優しい社会になる」という考えでした。そして「なぜ日本で?」という問いに対しては、ベトナムでONENESSの表現を続けてきた彼らが、故郷である日本の幸福度低下や自殺率増加といった悲惨な現状を変えたいと思ったから、だと書いてありました。
[Pizza 4P’s]は“Make the World Smile for Peace”というビジョンを掲げ、“Delivering Wow, Sharing Happiness” というミッションのもと、活動を続けています。確固たる信念の伝播というのは、時に押しつけがましく感じ取られてしまう時もあると思いますが、彼らの姿勢はとても熱く同時に爽やかで、何だか笑顔で一緒にお酒を飲みながら話を聞いているような感覚でした。でも心の底からMake the World Smile for Peace”を願ってレストランを続けているんだと、感じました。
圧巻の食体験を終え少し興奮してしまったので、散歩してリセットすることに。折角麻布まで来たので、麻布台ヒルズを二人でぶらぶらしていると、麻布台ヒルズの開発者である森ビルさんのステートメントが電光掲示板に大きく映っていました。
「人は、何を求めているんだろう。人は、なぜ繋がろうとするのだろう。人は、どんなとき心地よさを感じるのだろう。人間中心に都市のあるべき姿を考えたら、、、」と書いてあり、ここで「ん??」と文字を追っていた目線が一瞬で止まりました。なぜならば[Pizza 4P’s]は「地球から人へ、人から人へ、地球から自然へ、自然から人へ」と、人起点ではなく地球起点で語っていた姿勢が印象的だったからです。対して麻布台ヒルズは、人間中心に考えた時の街づくりだという事。念のため強調しておきたいのが、良し悪しという話ではなく、見ている世界の方向性が違う、という事でしかないと思います。ただ、その(大きな)ギャップを持つ両者が手を取り、新たな東京のランドマークを席巻しているこの構図こそ、ケイオティックでもある大都市東京のイマだったと感じました。
東京という人口密度が非常に高くひしめき合った街の中心部は、縦へ面積を積み上げていく形での土地の有効活用に向かっていると思います。そんな人工的な巨大都市は、少し離れた京都で生活している身からすると、わずかばかりの滞在でも圧巻され、少し疲れてしまうほどです。そんな東京をたらふく味わい京都へ帰り、早速ランニングを開始すると、数分で鴨川に出れる環境に改めて喜びを覚えます。この日は雲一つなく夕暮れがとても綺麗で、肩の力がすっと抜けるほどでした。空は広い。
- Naru Developments
上沼 佑也 / Yuya Uenuma
1995年生まれ、埼玉県出身。中学から都内の学校に通っていたこともあり、約15年間は東京で時間を過ごし、2022年10月より京都へ移住。明治大学とカリフォルニア州立大学へ通い、卒業後はコンサルティングファームに就職。その後、Insitu(現Staple)に入社し、ホテルや飲食店、Coffeeブランドの立ち上げなどを経験したのち、Naru Developmentsに転籍。現在は旅館の企画開発や運営に携わる。趣味は食べ・飲みに加え、ランニング(太らないために)とサッカー(アーセナルファン)。湯呑や椅子などをはじめモノ好きで、リサイクルショップのオンラインストアをチェックすることが日課になっている。