「ニハリ」を求めてオールドデリーへ、 雰囲気も“たべる”の一部だということ。
異聞インド旅 シェフ中村拓登 -2-
インド2日目。「ニハリ」を出すお店を目当てに、ニューデリーからオールドデリーへ向かった。そもそも「ニハリ」とは、もとはインドのムスリムが多く住むエリアで生まれ、パキスタン人に愛されるようになった料理だとされている。途方も無い時間と手間をかけてつくられる煮込み料理と言われている。
オールドデリーはニューデリーとは異なる空気感を醸し出していた。着いた直後から物乞いが集まってくるし、道の脇には足の指で包丁を挟んで鶏を捌いていたり、見た事もない強面な山羊が歩いているし不思議な感覚。
目的のお店[Shabrati Nahar Shop]は路地裏にあった。早朝から営業していて昼には閉まる。着いた時は10時くらいだったのだが、ひと段落着いた感じだった。そしてお目当ての水牛のニハリと、発酵させた生地を伸ばしてタンドールに張り付けて焼くナンをお願いした。
目の前で少年がナンを焼き上げてくれて、「ニハリ」とカリッとふっくらとした「ナン」を運んで来てくれた。シンプルな見た目で表面にはたっぷりの油が浮いている。見た目は辛くなさそうで美味しそう。ただ騙されるな。昨晩を思いだせ。恐る恐るナンを浸して食べる。美味しい…けどやっぱり辛い…朝から強烈な刺激。食べきれるのか? ヒーヒーしながら食べているさなか、写真を撮っていた妻はいつの間にかスタッフと一緒にナンを伸ばして焼いていた。
妻は英語もヒンディー語も話せないし、ましてや日本語のボキャブラリーも少ないのに何でそんな状況になるのか不思議でしかない。そんな状況下でたいらげた。その後何軒もローカルなところに行っては従業員さんや隣りに座っている現地のお客様と仲良くなる妻。そのおかげで食べきれないほどの施しを受けて(辛さのせいで食べきれないのが殆どなんだけど)よい体験となった。
この食べるという行為より、人との繋がりと温かさ、そんな周りの雰囲気などから得た異国感を体験することで「美味しい」という言葉を含めた“食“についてを考えさせてくれるキッカケになったのである。
1984年、茨城県生まれ。辻調理師専門学校卒業、辻調グループ フランス校卒業後、フレンチレストランや[八雲茶寮]などで勤務。フリーの料理人を経て、2019年から[サーモン アンド トラウト]のシェフを5年間務め独立。