エディターズノート

「RiCE」第36号「HOT & SPICY」特集に寄せて


Hiroshi InadaHiroshi Inada  / Aug 6, 2024

RiCEの第36号は辛味の特集です。味覚そのもので特集を組むというのがイレギュラーな印象を受けるかもしれませんが、創刊4号(2017年夏、遙か昔に感じます!)という初期の頃に甘味の特集をしたことがありました。七年越しの逆振りで、甘から辛へ。真夏ですし。

そう、夏の暑い日には辛いものが食べたくなりませんか。例えば実際、辛さ何倍とかの激辛カレーを食べると途端に涼やかな風が吹いてきたかのように爽快になったり。あれ、なんなんでしょう。科学的にいうと、口内から感じる激しい辛味が交感神経に反応を促して血管を拡張させて発汗させ、汗の蒸発が身体を冷やしてくれるそうです。もう少しだけ科学の話を続けますと、辛味の代表といえばトウガラシがありますね。これを食べると固有成分としてあるカプサイシンが作用し、辛さに反応して痛みを和らげる効果を促すエンドルフィンが放出される。さらには神経伝達物質ドーパミンの生産が刺激されることにより、テンションが上がって楽しくなったり、なんだかワクワクした気持ちになったりします。

世に激辛マニアがたくさんいるのはこうした副次的効果が関係している可能性が高い。甘党の人が甘いものを食べて幸せを感じるように、辛党の人が激辛を味わうことでハッピーになるのも理にかなっているというわけです。

ただ「甘い」との比較で言うと、甘味にはあまり段階評価がない気がします。むしろ「甘さ控えめ」みたいな表現がポジティブに受け止められたりして。翻って「辛い」に関しては、常に定量的な情報が求められている気がします。中辛、大辛、激辛、あるいは何十倍に至るまで。上限もあってないようなものでしょう。それはそれで否定しませんが、辛さにももっと定性的な情報があっていい。中南米が原産といわれるトウガラシは世界中に広がって、いまや栽培種は五万を超えると言います。それだけ多様な風味があって、もちろん辛さの強弱にもグラデーションがある。さらにはペッパーやマスタード、ニンニクや山椒、生姜、わさび……。考えてみれば辛味を感じさせる素材にもいろんなタイプがあって、それぞれにバリエーションがあるし組み合わせ次第で驚くような味が広がる。

人間の舌が味覚を感じる際の五味には通常辛味が入っていませんが、本当にそうなのかと思ったりします。現に中国などでは辛さを表現する言葉が5つ以上あったりするのだとか。英語でさえ HOT と SPICY があるというのに、日本語の場合は「辛い」の一言でまとめて、あとは度合いだけで語ろうとする。われわれはもっと辛さに対する耐性を上げつつ、その広がりに対して解像度を高めていくべきなのかもしれません。

世界共通の楽しみ、辛味。この一冊で夏のてっぺんを乗り越えましょう。

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