クラッシュカレーの旅

第2回 ちょっとチグハグ。でもイケる。/鳥取・石臼・叩き旅


Jinsuke MizunoJinsuke Mizuno  / Oct 23, 2024

トン! カン! やるものの代表と言えば、金づちだ。
トン! トン! やるものの代表と言えば、肩叩きであろう。
カン! カン! やるものの代表と言えば?

クロックですよ、クロック! 石臼のこと。

最近、「石臼にハマっているんですよ」と周囲に言いふらしながら生きている。すると、「ああ、これですか」なんて言いながら、誰もが同じジェスチャーを僕に見せる。空中で腕をグルグル回し、ゴマをすって見せるのだ。この時、すり鉢をイメージしている人もいれば、そば挽きの石臼を浮かべている人もいる。スリスリ、とかゴリゴリ、とかやるのである。

残念ながら、カン! カン! する人はいない。トン! トン! でもトン! カン! でもいいから“叩きつぶす”動きを見せてくれる人がいたら、僕はその場で抱き着いてしまうかもしれない。そのくらい、クラッシュカレーに使う石臼のことは誰も知らない。

石と石を叩き合わせることで食材を潰し、得も言われぬ香りを立てるわけだから、頼もしいほどの音が鳴る。いや、うるさいと言っていいくらいの大きな音である。食材が潰れる前はドンドンとかトントンとか鳴ることもあるし、潰れてくるとカンカンという音に変質し、何もない場所を叩いてみたりするとキンキンと高い音が鳴る。新種のドラムセットを手にしたような気分になる。

鳥取で石臼を叩いた。現地に住むイベントスタッフの一人が石臼を所有していると聞き、身軽に現場へ向かった僕はちょっとしたピンチを迎えることになった。“石臼”は確かにあったが、“杵”がない。いや、正確に言えば、“石杵”がなかったのだ。

「あれ? これ、叩く棒はどこにありますか?」

「それが、見当たらなかったんですよぉ」

え。ということは、にんにくやしょうがなんかを石臼に放り込み、握りこぶしでパンチを繰り出し続けなきゃいけないんだろうか。やがて手の皮が破け、血が滲み、ペーストと混ざり合い……、とあらぬ妄想を繰り広げる僕を彼が自信たっぷりの声で遮った。

「でも、代用になりそうな棒を3本持ってきました!」

見れば乳鉢の棒、木の杵、カクテルの混ぜ棒が揃っている。半信半疑の僕はまず乳鉢を手にし、石臼に入れた唐辛子を叩いてみた。が、サイズが小さすぎてパワーが足りない。握りしめると半分以上が姿を消すほど短いため、つまむように持って叩くが、幼児がおままごとをしているみたいだ。

頼もしい大きさなのは木の杵。持ち替えてみるとしっくり手のひらになじむ。が、石臼に木の杵を打ちつけても食材は思うように潰れてくれない。ドスッ! ドスッ! と聞き覚えのない音がして、食材はラフに飛び散った。

最後にカクテル棒を。こちらは金属だが、先っぽには少しギザギザとしたゴムがついている。説明する必要はないだろう。うまくいくはずがない。

「あのぉ、外に出て道端の石でも拾ってきましょうか?」

見かねた誰かがそう声をかけてくれたが、縄文時代じゃあるまいし。いや、そもそも石と石をぶつけて潰す調理方法は、縄文どころかもっと昔から世界中に存在したとされている。そういう意味では道端を物色するべきだったのかもしれない。悲しき現代人である僕は、チグハグな3種の棒を駆使してなんとかすべての食材を叩きつぶした。

鳥取のクラッシュカレー

【ペーストの材料】
・赤唐辛子(水で戻す)
・レモングラス(輪切り)
・カー(タイのしょうが、スライス)
・にんにく
・らっきょう
・ペッパー

【作り方】
1. ペーストの材料を石臼でペーストにする。

2. 鍋にココナッツミルクを入れてグツグツと沸かし、ペーストを加えて炒め煮する。

3. 鶏肉を加えて炒め、水とココナッツミルクを加え、塩こうじとらっきょうの汁を加えて煮る。

石臼を叩いて完成させた「香り玉」は、粒々感が残るある意味で不本意な仕上がりだったが、クラッシュカレーが完成してみると、適度な歯ざわりがいいアクセントとなり、食べ進めていても単調な感じがしない。ときどき、潰し損ねた素材を噛み、香りが弾けるのも楽しい。

ちょっとチグハグ。でもイケる。クラッシュカレーの新しい楽しみを発見した鳥取叩き旅であった。 

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