vegetusのススメ
殻のまま茹でて美味しい旬の「落花生」
以前は日本酒と20年以上向き合い、ペアリング技能士として務めておりましたが、4年前からレストランでシェフを始めました。しかも野菜料理専門の珍しい店です。ということで、この連載ではその時期の旬の野菜と、元々本業としていたペアリングを絡めながらお話していきたいと思います。
私のレストラン[polyphony(ポリフォニー)]は、肉類や魚介類を一切使用せず、植物性食品、乳製品、卵を使用する「ラクト・オボ・ベジタブル(Lacto-Ovo-Vegetable)」の店です。
ベジタブル? ベジタリアンじゃないの?と思う方もいらっしゃると思いますが、ベジタリアンは英語で「vegetarian」と書きます。これは野菜(vegetable)の語尾が変化したように見えますが実は「健全な、新鮮な、元気のある」という意味のラテン語「vegetus」が語源だそうです。ベジタリアンとは本来、野菜しか食べない人ではなく「健康で生き生きとして力強い人」という意味。この言葉は1847年にイギリスで発足したベジタリアン協会が使い始めてから一般に広まったようです。そしてそれを実践する「人」や「主義者」を指すようになりました。なので当店では野菜を使うという意味でベジタブルと謳っております。
なぜ当店がこれらの食材の料理を提供しているのか。
当店のオープンは2021年、コロナ禍真っ只中で飲食店の営業制限が厳しい中でした。そんな中でようやく外食を再開し始めていたお客さまがSNSにアップしている写真を見て私は驚きました。その当時、メディアでは「免疫力」という言葉がよく使われており、写真を見ると免疫力を作る素となるタンパク質の肉や魚がメインとなるお寿司や焼肉はよく食べられているのですが、ビタミンやミネラル、ファイトケミカルなど更に重要と思われる栄養素が含まれる野菜がほぼ写ってなかったのです。
その現状を見た時、それであれば当店は野菜を食べる日という位置付けでお客さまにもっと野菜を食べて、健康でいてもらいたいと思ったのが始まりでした。
ということで今回はまずは1回目。
私がこの季節になると無性に食べたくなる食べ物から。
それは「落花生」です。
殻から取り出された炒り落花生やピーナッツは通年販売されてますが、生の落花生は9月下旬から10月の短期間にしか出回りません。殻のまま茹でた落花生は美味しくてついつい手が伸び、食べ過ぎてしまいます。
落花生は南米を原産とし、東アジアを経由し江戸時代に日本に持ち込まれました。落花生とピーナッツ、呼び方は異なりますが同じものです。よくナッツとして扱われてますが、マメ料ラッカセイ属の一年草で、インゲンなどの仲間です。また地中に実がなるというのもイメージにないかもしれません。
国内で流通しているものの多くは中国・インド・ナイジェリア・アメリカ産で、国産はごく限られた時期と出荷が少なく大変希少性が高いとされ、地域としては主に千葉、茨城、神奈川で生産されています。
落花生に含まれる栄養素はというと、
タンパク質、不飽和脂肪酸、ビタミンE、ビタミンB12群、ミネラル(マグネシウム、鉄、亜鉛など)、食物繊維と人間の健康に必要なほぼ全ての栄養素が含まれています。
特に抗酸化作用のあるポリフェノールや、心臓病リスクを下げる不飽和脂肪酸が豊富です。また薄皮にはレスベラトロールというポリフェノールが含まれており、抗酸化作用に加えてアンチエイジング効果も期待できます。
そして実はこの落花生、お酒好きな方にこそ食べて欲しい食材なのです。
アルコール分解を働きかけるナイアシンと分解後に生じるアセトアルデヒドの分解を助けるビタミンB1が野菜トップクラスに含まれているので二日酔い予防対策にピッタリなんです。
ただ、気をつけたいのは高カロリーなのと、食物繊維が豊富なゆえ消化不良を起こす恐れもあり食べ過ぎには要注意です。1日20粒~30粒程度が適量、私はついそれ以上に食べてしまいますが…。1日の適量を守り、おいしくお酒に合わせたいですね。
【落花生の美味しい茹で方】
1. 大きめの鍋に水を張り、水に対して3%程の塩を加えて沸騰させる
2. 落花生を殻ごと入れ、40~50分ほど茹でる
3. 茹で上がったらザルにあげ、そのまま冷まして完成
このまま殻を剥いて食べることもでき、更にその後さまざまな料理に使えます。
【旬の食材を使用しての一品とペアリング】
◎落花生ときのこの青菜炒め
茹でた落花生の殻を剥いて、お好みのきのこ、青菜と一緒に油で炒めます。塩と白コショウで味を整えて完成。もし、あれば五香粉も加えると台湾風味になります。
写真では、しじみの約6倍のオルニチンを含む「甘しゃきえのき」、同じくビタミンEの700倍の抗酸化作用をもつエルゴチオネインを130mgも含む「たもぎ茸」を使用しており、酒のつまみとしては最強かもしれませんね。
ペアリングの日本酒は旨みを強く持つ滋賀県の「不老泉」。落花生ときのこは、どちらも旨みを強く持つ食材なのでそちらに合わせて。日本ワインだったら山梨県、蒼龍葡萄酒の「キュリアスType OR 2023」。甲州を赤ワインのように醸したオレンジワインで、杏のようなコクと含み香が心地よい味わいを演出してくれますよ。
- polyphony owner
竹口 敏樹 / Toshiki Takeguchi
映像カメラマンだった20代の頃、偶然立ち寄った酒場で日本酒のおいしさに開眼。独学で日本酒を学び、居酒屋勤務を経て東京・四谷に[酒徒庵]を開店。2015年に[酒徒庵]を閉店し、会員制の日本酒専門店[鎮守の森]をオープン。2021年には、サービスの朝日萌里さんとともに、自らが厨房に立ちラクト・オボ・ベジタブルのコース料理を提供する[polyphony]をオープン。著書に『もっと好きになる 日本酒選びの教科書』(ナツメ社刊)がある。
IG @polyphony2021
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