朝食の時代
東銀座[たらちゃん]で、干し鱈のスープ「プゴク」を
欧米のことわざに「朝食は王様のように食べなさい」というものがあるそうです。「昼食は王子のように、夕食は貧民のように」と続く、その意味するところは、朝食こそいいものをたくさん食べなさいということでしょう。
カロリー消費の仕方や脳への栄養やら、健康面からも朝食を食べるメリットは多く語られています。一方で、朝食は基本家で“済ませる”人が圧倒的に多い。人と食べにいくことが多いランチやディナーと比べて、外食の選択肢も少ないように感じます。
でも、美味しい朝食から始める一日の気持ちよさに気づいている(あるいは憧れている)人はけっこういる! RiCE.press編集部でも「これからは朝!」と言わんばかりに、アンテナを伸ばしていきます。そこで始める新シリーズ「朝食の時代」。
健康なのは当たり前として、楽しい朝の時間が過ごせるお店を特集します。
Breakfast 1|ほっと安らぐ干し鱈のスープ「プゴク」
東銀座は歌舞伎座の裏手に、朝7時から韓国スープで働く人たちの体を温めるお店がある。[たらちゃん]という名のこのお店では、韓国の家庭料理として広く親しまれる「プゴク」というスープが味わえる。韓国料理と聞くと辛いものを想像しがちだが、辛さは全くない。牛テールから取ったベースの出汁に「プゴ(북어:干し鱈)」を加えて煮込むのが現地では一般的(「ク」はスープの意味)。プゴは低糖質で高タンパク、さらにアミノ酸もたっぷり含まれているため、健康にも美肌にも最適な食材! しかも肝臓にも良いとされているから、二日酔いの朝にもありがたい……。
2021年12月にオープン。韓国料理店と聞いてイメージする雰囲気とは異なると感じるだろう。鱈の骨の形をしたネオンもおしゃれ
厨房に立つのは店主の高潤美さん。プゴク専門店を東京で開くきっかけをこう語ってくれた。
「私の祖父母は韓国から日本に来ているので、私自身韓国料理を食べて育ちました。祖母が作ってくれたプゴクは家庭の味としてとても馴染みのあるものでした。ある時、ソウルにある[武橋洞プゴクッチッ]というお店で食べたプゴクに衝撃を受けました。こんなに美味しいんだ、これを日本の人にも食べてほしいと思ってお店を始めることにしたんです」
[たらちゃん]をオープンする以前は飲食店などのプロップスタイリストをしていたという高さん。飲食経験はなかったが昔から家で作り方も知っていたし日本らしいアレンジのアイデアも膨らんでいった。現地で使われる牛は使わず、昆布と鰹節の出汁を合わせることで、より体に優しく日本人の口にも馴染みやすいプゴクを提供している。
(左)プゴクに使用される干し鱈は、マヨネーズをつけて食べてればおつまみとしても美味しいのだそう
(右)大鍋で出汁を取る。煮込み作業は全部で7時間ほど。店内にも出汁の良い香りが漂いさらに食欲が湧いてくる
注文を受けてから一人前を小鍋に移して調理する。
干し鱈と凍り豆腐が入ったスープに溶き卵を入れて完成
たらちゃんのメニューはプゴクとご飯、副菜のセットの1種類。注文するとすぐに、大鍋で煮込んでいた乾物のベース出汁と干し鱈の出汁を合わせ、熱々のものを提供してくれる。最初の一口はまず水キムチを。急激に血糖値が上がらないようにとのことで、健康を気遣った優しさに心がほぐれる。
プゴクは干し鱈の旨みをしっかりと感じることができ、優しく、どこか懐かしさすら覚えるほっとする味わいだ。そんなプゴクの“味変要員”として、高さん手作りのキムチやアミ(海老)の塩辛、エゴマの粉末が並ぶ。スープに合うようにニンニクを抑えめにしているというキムチには、野菜と果物を組み合わせて作ったヤンニョムを使用しており、化学調味料は一切入れていない。あっさりとしたスープに絶妙な塩味や風味が加わると、これまた違った味わいに。
昨日から持ち越した疲れを癒してくれるような贅沢な一杯。ふわふわの卵と干し鱈の食感が良いアクセントになっていて満足感もある。それでいて健康にも肌にも良いなんて、至福のスープじゃないだろうか。
心地よさはその空間からも。お店を開くにあたって初めに決めたという食器や、自ら希望を伝えデザイナーと一緒に作ったインテリア、映画の世界にいるかのような気になるジャズを中心としたプレイリストまで。ついつい長居したくなってしまう。都会の象徴ともいえる銀座から程近いが、東銀座方面には老舗も多く落ち着いた空気が流れる。そうした「下町感のあるエリアでお店を開きたかった」と高さんも頷く。
営業は朝7時から19時まで(土曜は17時まで)だが、スープがなくなり次第終了なのでやっぱり朝がおすすめ
あたたかいものが嬉しいこの季節、滋味溢れる[たらちゃん]のプゴクを食べて、朝食から良い一日をスタートしてみよう。
たらちゃん
東京都中央区銀座3-13-5(Google Maps)
月火水木金:7:00〜19:00
土:7:00〜16:00
※スープがなくなり次第営業終了
日祝定休
Tel 03-6278-7780
IG @tarapugok
Photo by Shohei Hayashi(写真 林将平)IG @shohei_hayashi
Text by Megumi Bunya(文 文屋めぐみ)
Edit by Yoshiki Tatezaki(編集 舘﨑芳貴)
Editorial Assistance by Honoka Tezuka(編集補佐 手塚穂乃佳)
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