連載「おい神保(おいしんぼ)」 ~サラリーマンランチ紀行~
第1回 鈍色の街、二日酔いの朝
神保町…
曰く、古本の街
曰く、カレー激戦区
曰く、喫茶店の聖地
曰く、中華街(チャイナタウン)
そんなさまざまな異名を持つ食と活字のシャングリラ、神保町。
とりわけ昼飯については全国津々浦々比較しても頭一つ抜けた選択肢の多さにより、界隈のサラリーマン達の心と胃袋を満たしており、停滞を続ける日本のGDPに対して、神田一帯、午後のGDPは上昇の一途を辿っているとか、いないとか…。そんな神保町で勤続10年となる筆者の昼食雑記が、この「おい神保」である。
さて、そんなカレー激戦区に勤めている筆者の昼食選択肢として真っ先に思い浮かぶのが[エチオピア]の「カリーライス」。
なぜ真っ先にこの選択肢が思い浮かぶのか。
それは主に体調不良(ふつかよい)である事が多いからかも知れない。
神保町界隈のサラリーマンは会食が多かったり、夜も元気な企業戦士が多い事でも知られる。
そういった強者達は、各々がアセトアルデヒドを体内から排斥するルーティンを持っており、私の場合、その一つに[エチオピア]の「カリーライス」が入っているのだ。
「二日酔いにはカレーが効く」
神田・神保町界隈でまことしやかに囁かれている風説である。
弱った胃腸をスパイスで刺激し、発汗して整えつつアルコールを体外へ。アルコール分解で失われた糖質をライスで補給するという、実に理に適った説だ。
そしてその説を立証するのに、神保町で一番適したカタチを為しているのが、[エチオピア]の「カリーライス」なのである。
[エチオピア]の「カリーライス」の外観を端的に表すといたって普通のカレーライスのナリである。
家庭的なカレーライスの見た目で、一口食べたその刹那、ダルシムのヨガファイヤ的(ストリートファイターより。インドの修行僧)スパイスの炎渦が鼻腔口腔に渦巻く感覚に襲われる。そしてライスはたっぷり、固めに仕上げた日本の白米。
日本のカレーライスというテンプレートに極限まで南インドを詰め込んだカオス。そして、そのカオスが二日酔いから涅槃への招待を約束してくれるのだ。
次に食べ方について。
二日酔いの企業戦士達は午後に重要なミッションや会議を設定していることが多い傾向にある。
その午後のミッションに向けて昼食で二日酔いを解消しつつ、動きが鈍化しないよう糖質の類を調整する「ライスマネジメント」を駆使してコンディションを整えることは、この地で働く者には必須のスキルだ。
以下に記すのは、筆者が[エチオピア]で最も頻度高く注文するカスタムとなる。
・先ずメニュー選択は基本的に「野菜カリー」。
[エチオピア]のカリーはルーに脂を極力使っていない為、ヘルシーで、二日酔いの弱った胃腸でも軽快に食べ進めることが出来る。
「野菜カリー」は肉の類が入っていない純然たる「野菜」のカリーである為、ヘルシーという特徴を壊さずに頂くことが出来る。またチキンやビーフといった肉のカリーよりも具沢山の為、食い出があって腹持ちも良いのだ。
・辛さは12倍以上を推奨する。
食券を出すと聞かれる辛さは、細やかに調整することができ、最大70倍迄。12倍は他店の大辛に値する。発汗、第一義としている為、12倍を推奨するが辛いのが苦手な人は0倍でも良いだろう。それでも他店の中辛程度の辛さはあるらしいが…。
そして、もうひとつ重要なのが、
・ライスを半分。もしくは少なめで頼むこと。
前述した通りライスマネジメントは午後の業務を軽やかに達成する為、必須のスキルである。
普通盛りの時点でライス量が多い[エチオピア]でドカ食い糖質気絶をしない為には、糖を断ち切る覚悟が必要だ。
ただ、どうしても炭水化物を取りたければ、ジャガイモを2個ほど追加すると良いだろう。こぶりの蒸かし芋は別皿提供で、お代わり無料である。低GIの為、眠くなりにくい、と思う。
・注文が終わり、カリーが着皿したら先ず、別皿提供の芋を皿の中に放り込む。
「カリーライス」であるが形式的にはカレーライスである為、芋は皿の中でカリーと渾然一体でなければならない。いわゆる様式美である。
芋の空き皿には卓上福神漬をこんもりと入れよう。この福神漬けがうまいのだ。[エチオピア]の福神漬けは塩味が強くカリーのスパイス感と相性が良い。そしてこの福神漬けを入れるという行為が、[エチオピア]の「カリーライス」を唯一無二たらしめている。福神漬けに合うスパイスカリーが他にあるだろうか…否、無い。
これが完成した、滋養強壮二日酔い回復メシ。
「野菜カリー、ライス半分、じゃがいもマシマシ」の姿である。
スプーンについたカリーの残滓をライスに拭って福神漬けと食べるのが一番好きな食べ方だが、ライス半分なので多用できないのが玉に瑕(きず)、、幕の内弁当の梅干し下のご飯が一番うまいのと似た理屈だ。
ランチタイムだと食後にアイスのサービスがあるが、これは糖を取らないのと体を冷やさないという意味で省略して貰うのが望ましい。しかし、貰えるとわかっている「サービスアイス」とはいえ提供される前に断るというのは少しばかり慎みにかけるようで、なんやかんやいつも食べてしまっている。
イチゴ、チョコ、抹茶の日替わりで、抹茶だと少しうれしいのだった。
- Office worker
山口航平 / Kohei Yamaguchi
主に神保町で昼飯を気ままに楽しむ会社員。年間約200回の昼飯中に思ったことなどを自由に綴る。趣味はナポリタンを作ること。時々ナポリタン屋としてポップアップも。
IG @ykk05017