ラブ&チーズ

酪農の現状とチーズでできること


Shinji FujikawaShinji Fujikawa  / Jul 13, 2018

2004年の思い出

チーズ作りを学ぶため南チロルに滞在していた頃に、放牧の酪農にも携わらせてもらったことがある。

その酪農家ではチーズを作るだけではなく、ベリーを摘んだり、冬に備えて暖炉の薪を割り、牛の餌用に草を刈って干したり。自分たちで飼っている豚を生ハムにしたり、鴨の首をちょんぎったり……。

朝から晩までやることが目白押しだった。

特に朝。酪農家の朝は早い。

朝の5時には搾乳や、エサやり。自分たちの朝ごはんをすませたあとには、牛のフンを手押し車で運び、牛舎を掃除する。その後、電柵を設置し牛を放牧する。生き物と一緒に暮らす上で、やはりその生き物に生活リズムを合わせる必要が出てくるのだ。

止まらない酪農家の減少

さて、話は変わって日本の酪農の現状を紹介したい。チーズ製造者として酪農の現状をより多くの方に知ってほしいというのが理由だ。

まずは酪農家の戸数。

平成10年から29年の間で、北海道では10,600戸から6,300戸へ。 都府県では26,700戸から10,100戸へと減少している。おおざっぱにいってしまうと、約20年で半数近くになっているという恐ろしいデータがある。

では牛の数はというとこれも北海道では882,000頭から779,000頭、都府県では997,000頭から554,000頭へ。都府県では同じく半減している。東京都は1,600頭ほどの牛がいる状態だ。 (出典:農林水産省「畜産統計」)

なぜ、これほども減っているのか。

牛は生き物なので、世話をする酪農家さんは休むこともできなく、正月などもない。長期休暇を取るためにはヘルパーさんを雇ったりをされているという。そして700kg近くもある牛の餌であり、フンであり、重い。肉体労働だ。

また日本の乳の制度にも起因することがある。今年度から自由取引ができるようになったが、酪農組合に属していると全ての乳を組合に納めなければならず、乳価格を自らが決めることもできなかったし、酪農家の個性を出すのも難しかった (乳のナマモノという特性上、全量集荷してもらえるというメリットもある)。

後継者不足の問題もあり、酪農家の減少がとまらない。

チーズでできること

本当に尊い仕事をされているにも関わらず、それらの理由で酪農家の方が廃業されるのはとても残念であり、私自身も強い危機感を抱いている。

私たちが牛乳をいただいている東京の清瀬・東久留米で酪農を営んでいる7軒の酪農の方もこだわりを持って牛を育ててくださっている。感謝しかない。

私たちがより美味しいチーズを作ることで、日本でもチーズ文化が広まり、乳量が増加し酪農家の減少がとどまれば嬉しい。

僕たちチーズづくりは酪農家さんの働きなくしてはなりたたない。
もう一度そのあたりのことを考えてチーズ作りに励んでいきたい。


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