#僕に発酵できないものはない

第一回 「猪醤」


Takumi FujiiTakumi Fujii  / Nov 14, 2024

僕はスキンケアブランド「OSAJI(オサジ)」が運営する、鎌倉の[enso(エンソウ)というレストランにて現在進行形であらゆる食材を発酵させ、お料理や飲料に取り入れています。

この連載の題名にもなった「#僕に発酵できないものはない」とは、僕のInstagramで自家製の発酵食材について投稿するときに付けているハッシュタグに由来していて、お店ではお肉にお魚、お野菜、果物に始まりハーブやお花、軟体動物に貝類 etc. 今現在50種類ほどの食材を発酵させています。

そんな僕の可愛いコレクションの中から、今回はほとんどの方にとって一番身近ではないと思われる肉醤(ししびしお)、特に猪を発酵させた猪醤(いのししひしお)を取り上げてみましょう!

肉醤とは簡単に言い表すなら魚醤のお肉versionで、お肉を発酵させることで得られる液体状の調味料です。

お肉のたんぱく質を酵素で分解しアミノ酸が増えたこの発酵調味料を使うことで、動物性のUpperなうま味、そしてお肉の香り+発酵香や熟成香がスクランブルされた複雑な香りをお料理に付与することができます。

猪醤。石川県小松市のジビエ処理場から仕入れた猪肉。今年の春から保存瓶の中で常温発酵させているもの。挽肉状にすると分解が早く進み、瓶の下のほうに猪醤が溜まってきている様子が見えます

作り方はいくつかパターンがあり、古典的な方法だとそのお肉の内臓の酵素を使い発酵させるワイルドなものから、酵素を出す内臓を麹に置き換えて作るマイルドなものまで様々です。

いずれにしろ肉醤作りは結構手間がかかるので、忙しいレストランの営業の合間にうぉーーー!っと気合を入れて仕込んで最低半年、長いと一年以上寝かせて発酵・熟成させていきます。

挽肉状の猪醤瓶。非常にかもってます。「醸ってる」とは、発酵している様子を表す、たった今僕が考えた造語です。流行らせたい……。上面にも茶色い猪醤が溜まってきてます

今[enso]では軍鶏、牛、鴨、猪のお肉をそれぞれ発酵させています。

鴨醤。こちらは発酵させて半年程の鴨肉。醸ってるし、鴨ってる。

今回は肉醤コレクションの中から猪醤を使ったお料理を一品。

猪ステーキ。猪肉、今回の部位はロースをシンプルに焼いたもの。猪の骨を煮出して取った出汁をベースに、更に猪醤を加えたソース。猪肉を猪由来のソースで食べる!猪醤はナッツ香がするので、黄色いカシューナッツのソースと共に

完成済み猪醤。こちらは半年発酵させた猪醤をろ過し、精製して発酵を止め醸し終わったもの。液体状の調味料で半年間ゆっくりとメイラード反応が進み、とても茶色くクリアな液体。加熱するとブーストされた独特の香りが立ち上ります。これを猪骨出汁に混ぜ込みソースを作りました

できあがった肉醤は今回のように、そのお肉を使ったお料理に使ったり、発酵させた猪は元々春に山菜を食べていたらしいので、山菜のサラダのドレッシングにしたりと、なにかしらのストーリー性のある食材と合わせて使うことが多いです。

僕らのレストラン鎌倉の[enso]では、たいていどこかしらのお料理に肉醤を使っているので、ぜひ遊びに来てください!

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