連載「おい神保(おいしんぼ)」 ~サラリーマンランチ紀行~

第2回 ミッションインポッシブル。蜿蜿長蛇を啜りきる


Kohei YamaguchiKohei Yamaguchi  / Dec 2, 2024
神保町…曰く、古本の街。
曰く、カレー激戦区。
曰く、喫茶店の聖地。
曰く、中華街(チャイナタウン)。
そんな様々な異名を持つ食と活字のシャングリラ、神保町。
とりわけ昼飯については全国津々浦々比較しても頭一つ抜けた選択肢の多さにより、界隈のサラリーマン達の心と胃袋を満たしており、停滞を続ける日本のGDPに対して、神田一帯、午後のGDPは上昇の一途を辿っているとか、いないとか…。
そんな神保町で勤続10年となる筆者の昼食雑記が、この「おい神保」である。

神保町の昼飯といえば行列がつきものだ。

有名店は軒並み行列を成し大蛇のような存在感を放っており、日々食欲の奴隷達を飲み込んでいる。

その中でも特に目を引く大きな欲望のうねりを生み出しているのが、讃岐うどん都内No. 1との呼び声も高い[うどん 丸香](以下、丸香)だ。

平日でも20〜30人の並びは当たり前。店前行列のカタチは大蛇を超え、八岐大蛇のような存在感である。

そんな八岐大蛇に挑む、昼食休憩1時間という時間制約に縛られた悲しき勇者スサノオノミコトことワタクシ…。

事実、その行列に恐れをなして踵を返していく者も非常に多く、特に近隣に勤める時間制約に囚われた悲しきスサノオ達が後を絶たない。

しかし筆者は神保町歴10年のベテラン。[丸香]には100回以上通っている経験則がある為、20〜30人の並びの場合、余裕を持ってオフィスという名の高天原へ帰還出来ることを知っている。

つまり、神の町・神保町に勤める悲しきスサノオ達に伝えたいことは、案ずるより産むが易し。おののく行列にも果敢にトライしてみて欲しいということである。

事実40人くらいの並びであれば昼食休憩内に帰還した経験もある。(この場合、店を出た瞬間にガンダである。)

そんな[丸香]では並んでいる間にメニュー表が配られ、行列の中でオーダーを完結する。さまざまな種類のうどんやトッピングがあるが、筆者の場合は春夏と秋冬、季節で注文するメニューを変えている。

まず春夏にかけては「天然わかめうどん冷+かしわ天」である。

春夏といってもGWが明けた少し汗ばむくらいの時期から頼むことが多い。少し汗ばむくらいの夏日に冷たいダシを一口…。

冷かけの上に乗っている肉厚の天然鳴門わかめが非常にビュー(北海道弁)である。讃岐うどんの食べ方として筆者が一番好きなのが冷かけだ。そして冷かけは[丸香]の最も基本的な食べ方でもある。

絶妙な塩分濃度に風味豊かなイリコ、そこに不可抗力的に紛れ込むわかめ。丼の様相は、豊穣の海だ。イワシの魚群が鼻腔を突き抜けてゆく。

筆者はこのダシを新世紀エヴァンゲリオンに出てくる生命のスープにちなんで、「L.C.L」と呼んでいる。このL.C.Lを飲むことで、うどんとのシンクロ率を上げてゆくのだ。

次にうどんを啜ろう。

ここで注意して欲しいのが冷かけをはじめとした、冷たいうどんの場合、うどんは必ず二本ずつ啜って欲しいということだ。

香川県民が小学校に上がると同時に、まず教えてもらうこと。それは、「喉越しの口中飽和本数=うどん二本」という、うどん公式である。とくに、讃岐うどんのようにコシが強い麺の場合、二本を以上啜ると口の中が麺でいっぱいになり喉越しを楽しむ余白が無くなってしまう。

うどんのコシを適切に楽しむには、口中に40%程度の空きが必要であり、その40%の口中余白でうどんのコシの正体とも言われる弾力と粘りを弾ませ、楽しむのだ。二口目からはわかめも巻き込んで啜ろう。

鳴門海峡の渦潮で鍛えられた肉厚わかめも、うどんに負けぬコシがあり二、三枚うどんの隙間に挟んで啜ると一層力強い啜り心地で二玉啜っても飽きないことだろう。

あらかたうどんを啜ったら今度は天ぷら、わかめうどんに合わせるのは、かしわ天。たんぱく質と脂質を補い、PFCバランスを整えよう。

ムネとモモの二鳥一対で別皿提供されるかしわ天は、ジューシィかつボリューム満点。

塩と胡椒である程度下味がついている為、そのまま食べてもおいしいのだが、[丸香]の天ぷらは全てうどん専用としてチューンアップされており、うどんにのせて食べることを推奨している。メニュー表にもその旨、記載済である。

おそらくお品書だけ注視してこの但書を読んでいない人がほとんどなのではないだろうか。「オレでなきゃ見逃しちゃうね…」別皿提供なところも巧妙な引っ掛けポイントだ。

筆者の場合は、うどんを半分ほど啜ったら、ダシの中に先ずはムネからドップリと浸す。ムネ肉はあっさり加減を楽しみたい為、ダシに肩まで浸すことで適切に塩味を纏って余分な脂が抜け、味わいにシャープさが増す。

モモはダシにチョイ浸くらいをオススメする。モモのジューシィさを損なわないように、ダシからはほんの少し塩味をもらう程度に浸す。新鮮な鶏肉の脂は、甘くてうまいからソレを引立たせる塩味を拾えたら勝ちだ。

ここまで、うどん→わかめ→ムネ→モモと計算して食べ進めてきた。手元に残っているのは最後ダシだけだ。

モモを食べた後に残った脂を、ダシで洗い流す。別名イリコ禊でダシを一気に飲み干すのである。あえて重いモモ肉を最後に残したのも、イリコ禊の為の伏線なのだ…。

と、ココまでつらつら書いたら1品だけで2000文字を超えてしまった…。

続きはまた次回、秋冬に頼むおすすめメニューと食べ方を紹介する。

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