連載「おい神保(おいしんぼ)」 ~サラリーマンランチ紀行~

第3回 ミッションインポッシブル。蜿蜿長蛇を啜りきる(後編)


Kohei YamaguchiKohei Yamaguchi  / Jan 15, 2025
神保町…曰く、古本の街。
曰く、カレー激戦区。
曰く、喫茶店の聖地。
曰く、中華街(チャイナタウン)。
そんな様々な異名を持つ食と活字のシャングリラ、神保町。
とりわけ昼飯については全国津々浦々比較しても頭一つ抜けた選択肢の多さにより、界隈のサラリーマン達の心と胃袋を満たしており、停滞を続ける日本のGDPに対して、神田一帯、午後のGDPは上昇の一途を辿っているとか、いないとか…。
そんな神保町で勤続10年となる筆者の昼食雑記が、この「おい神保」である。

前編に引き続き、神保町の大蛇[うどん 丸香](以下、丸香)の啜り方の話である。

前回は盛夏における[丸香]の真骨頂「冷やしわかめ」の啜り方について言及した。

夏が過ぎて秋になるが、最近の気候は春夏冬(アキナイ)である。暦の上では秋が来ても蒸し暑いので引き続き冷たくさっぱりとしたうどんを食べたくなってしまう。

そんな時によく食べるのが「ぶっかけうどん」だ。

キリッと〆った麺に冷たい出汁、上には葱に貝割れと厚い削り節。そして大根おろしがたっぷりとのせられている。生姜のアクセントもたまらない…

筆者はこの「ぶっかけ」を食べる時、揚げ物は頼まない。というか頼めない状況になっていることが多い。

ぶっかけうどんの具材の「毒消し」的ニュアンスからも感じ取れるとおもうが、このうどん、二日酔い解消に最適なのである。

夏が過ぎ、若干の過ごしやすさを覚える初秋の夜はついつい飲み過ぎてしまう。秋の夜は永いのであった。

そんなトコシエの夜を過ごした翌昼に飲む、塩味の効いたイリコ出汁は格別、ぼやけていた脳みそから浸透圧によってアルコールという水分を搾り出し、嗜好にシャープさと輪郭を与えてくれるのだ。

このぶっかけうどんには、状況に応じて以下の2つ「どちらか」を味変要素としてトッピングすることがある。

重度な二日酔いで麺すら喉元を通り過ぎない時には酢橘(時価)である。

徳島産の上モノ、筆者は搾る前にまず種をかき出す。

そしてこの酢橘の搾り方にも、コツというか性格が出ると思うのだが、アナタはどうやって酢橘を搾るだろうか?

丼の中に予め完成されているアジがある以上、酢橘の酸味も思考停止的に搾りかけるのでなく、意図を持ったエフェクトを狙いたいのだ。

筆者の場合、酢橘は「ここぞ」という場面まで一搾りもせずに取っておく。使う場面は、一食あたり3回が限度だ。

数回麺を啜った後に出てくる若干の間延び。ソコですかさず、一定の極小範囲を指定し、果実の3分の1を一気に潰し、果汁を指定範囲にゲリラ豪雨的に散布するのだ。こうすることで、指定した極小範囲にのみ酢橘雨林が形成され、芳醇な酢橘香を楽しむことが出来る。

一方で、他の範囲は以前のニュートラルなぶっかけうどんとして楽しむことが出来るのだ。

もう一つのトッピングは期間限定の青唐辛子なのだが、話が長くなりそうなのでココでは割愛する。

そんな夏のような秋が過ぎたら冬が始まる。平日でも30人以上が行列する[丸香]の冬は身体に堪える。讃岐うどんはコシが命、そのコシを楽しむのであれば冷かけや、つけうどんがベストであるが寒い冬には温かいお出汁が飲みたいのが日本人のサガである。

筆者はそんな[丸香]の冬には「肉うどん」を注文する。

肉の上にはたっぷりと厚い削り節が載っており、肉感に負けない出汁感もしっかりと担保されている。

牛丼をオマージュしたという「肉うどん」は牛丼よろしく、甘辛く煮た薄切りの牛肉が白く美しい麺線上に敷き詰められた非常に豪華なうどんである。

まず着丼したら、削り節を口に含み1番出汁で口中をコーティングしよう。強い肉の旨みを受け止める準備だ。削り節を口に含んだら気が済むまで肉を喰うのだ。筆者は別添される黒胡椒をたっぷりと挽いてかけるのが好きな食べ方だ。ここで「肉を食べ過ぎたらどうしよう?」など考えるだけ杞憂である。好きなだけ貪ると良い。

何故なら[丸香]のうどんは肉が無くても全方位隙がないアジであり、肉が残した余韻だけで十分ビクトリー麺ロードを啜りきってしまうことができるからだ。むしろ、筆者は肉とうどんはセパレートで食べきった方がうまいとさえ思っている。

関西風すき焼きにオマージュした食法である。最初に噛んで肉を味わい、最後に麺を啜るのだ。

この時注意して欲しいのは、温かいうどんの場合は麺3本を1度に口中に入れるということだ。

温かいうどんの場合はm冷やしの時よりも麺にコシが残っていない為、前述した喉越しの口中飽和本数の公式が変化するのである。冷たいうどんは1度に2本、温かいうどんは1度に3本。

コレが絶品[丸香]のうどんを最高に美味しく啜りきる唯一無二の方法である。

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