vegetusのススメ
まるごと食べて美味しく免疫アップ「葱」
例年よりは平均気温が高めな日々が続いていますが、やはり夕方以降はぐっと冷え込んできますね。
今回はそんな寒い時期に美味しくて風邪やウィルスに負けない免疫力アップの食材「葱」に注目してみましょう!
まず葱は大きく分けて2つの部類に分かれます。
1つは「白葱(根深葱、長葱)」。
白葱とは、主に白い部分を食べる根深葱のことで、長葱とも呼ばれ、根元に土寄せして白い部分が長くなるように栽培したものです。千住葱、加賀葱、下仁田葱、曲がり葱、上州葱、新里葱、赤ひげ葱、赤葱、岩津葱、などなどがこの部類に入ります。
もう1つは「青葱」。
関西で多い青葱は、葉葱とも呼ばれ主に京都府発祥の「九条葱」のことを指しています。福岡県の特産になっている万能葱や、やっこ葱、一般に小ネギと言われるものもこの種になります。
その他、葱と玉葱の雑種である「わけぎ」や、更に細い「あさつき」、若採りの「芽ねぎ」等、色々ありますがこれらも青葱の部類に入ります。
またレストラン等で使用するヨーロッパ品種の「ポワローネギ(リーキ)」や「シブレット(チャイブ)」などが存在します。
葱は全国で栽培されており、生産量では関東が多く埼玉・千葉・茨城の3県で全国の36%を占めています。基本的には通年市場に流通していますが、もっとも葱が甘く美味しくなるのは晩秋から春先になり、その頃が旬と言えます。
左が甘トロ葱、右が九条葱
上から御代田葱、真ん中が深谷葱、下が下仁田葱
では葱の栄養成分とその働きをみていきましょう。
白葱は、淡白食野菜(アリシンが豊富で血液をサラサラにし殺菌効果も抜群)。青葱は、緑黄色野菜(β‐カロテンやカルシウムが豊富。更にフルクタンという糖がインフルエンザ予防にも効果あり!)にあたり、それぞれ栄養成分が異なります。
葱特有の強い香りの成分は「硫化アリル」という成分によるもので、ビタミンB1の吸収を助ける役割のほか、血行をよくし、疲労物質である乳酸を分解する作用があるといわれてます。肩こりや疲労回復にも効果が期待できます。更に消化液の分泌を促す働きもあります。この硫化アリルは刻むことによって沢山作られ時間と共に消えてしまうので食べる直前に調理する、カットすることが大切です。
昔から風邪をひいたときには焼いた白葱を喉に当てたり、葱を食べるとよいといわれる民間療法は、葱の刺激臭や辛味成分の硫化アリルの効果からくる強力な殺菌作用と鎮痛効果によるものです。非常に揮発性が高いので喉に当てるだけでも効くというわけです。
そして、葱の青い部分の内側にあるネバネバの成分を「ペクチン」といい、ここには免疫力を活性化する作用があり、ネバネバを摂取すると体内の異物を食べる免疫細胞マクロファジーが最大5倍に活性化します。抗アレルギー作用を1.5倍、NK細胞(ナチュラル・キラー細胞。NK細胞は体内をパトロールしながら、がん細胞やウィルス感染細胞等を見つけ次第攻撃するリンパ球)の活性化を約2.5倍に高めウィルスに抵抗する力をトリプルで強化してくれます。
葱の白い部分は、身体を温めて風邪を治す生薬としても用いられています。青い部分からは免疫活性パワー、白い部分からは血流改善効果を得られます。このような効果から、風邪やウィルスを2つの力で撃退するというわけです。
このようにスーパーフードとも呼んでいい「葱」。加熱や冷凍では栄養素は失われにくいのですが、唯一の敵は乾燥!
葱を乾燥させると抗酸化力は半分になってしまいます。また抗酸化力だけでなく、ビタミンC等のビタミンも乾燥によって減少しますので、乾燥対策が必須になります。長葱を購入してすぐに使わない場合は、まず成長点のある根元を切り落とします。
そして白い部分と青い(緑の)部分をカットして分けます。緑の部分は水分が多いために傷みやすく、白い部分は乾燥してしなびやすいため分けて保存します。カットした後は新聞紙やキッチンペーパーなどでくるんで保存袋等に入れ冷蔵庫にて保存します。
更にオススメは0℃に近いチルド室で保存すると、葱がエネルギーを節約するために水分の蒸発が抑えられ、また糖分を蓄えようとするため甘みも8%程アップします。
【葱の美味しい食べ方】
さてそんな葱たち。
どんな調理が一番、栄養素を逃さず美味しく摂取できるのか?
私も毎回葱と向き合って考えさせられます。
色々なことを考えるとやはり「焼き」!
生の長葱には辛みがありますが、じっくりと焼くことでホクホクと甘くてとろ~りジューシーに仕上がります。独特の匂いも抑えられ、子供から大人まで美味しく頂けます。
しかも、加熱することで葱の抗酸化力は2.5倍にもアップします。加熱に弱い野菜食材が多い中で、珍しく加熱してこそ本領発揮する食材なのです。焼くだけでアリシンもフルクタンも甘みを作ってくれます。油で焼いてはじめてβ‐カロテンの吸収率も上がるので、この時期の完全健康食品は「焼き葱」と言っても過言ではないでしょう。
今回はシンプルに長葱を油でじっくり焼いた一皿です。青い部分も焼いてみました。ソースにはビタミンCの豊富なじゃがいもと九条葱をじっくりと炒めて作ったソースです。
うちは肉類や魚介類を使用しないというルールの野菜専門店ですので、このメニューにしましたが、皆さんがご家庭で作られる場合は、ビタミンB1を豊富に含む豚肉と葱焼きがオススメです。それは、葱のアリシンがビタミンB1の吸収率を10倍に引き上げる効果があるからです。豚肉が苦手な方は、同じくビタミンB1を含む鶏レバーや、鰻、鯛、鯖、えのき茸、大豆、ブロッコリー、しめじ等を合わせてみてくださいね。
◎下仁田葱の一本焼き~九条葱のソース~
材料は、
・下仁田葱(太さのある長葱だったら何でもOK)
・米油(他の油でもOK)
・塩
だけです。
あとはフライパンと菜箸さえあれば大丈夫。コツは油を引いたフライパンに葱をのせ、火が消えるか消えないかのぎりぎりくらいの極弱火でじっくりじっくり焼くこと。最後にお好みの塩をぱらぱらと振ってください。
ソースは、九条葱をきざんで、細かくカットしたじゃがいもに塩(お好みの量)を振り、油を引いた鍋でじっくり炒めます。このソースも極弱火で加熱していきます(艶を出すため、旨味を強くするためバターを加えてもOK)。焦がさないように時折ヘラでかき混ぜてくださいね。そして最後にミキサーに掛けて出来上がり。レストラン風の美しいソースに仕上げるのであれば最後に丁寧に濾してくださいね。
◎料理は他にも!
塩焼き盛り合わせ。左から甘トロ葱、下仁田葱、深谷葱、右奥の細いものが御代田葱
熊本県の郷土料理「一文字(わけぎ)ぐるぐる」を九条葱で代用した、九条葱ぐるぐる~酢味噌掛け~
昔に読んだ漫画「クッキングパパ」に登場した葱と昆布だけの葱鍋
【葱とペアリング】
合わせる日本酒は、広島県の[今田酒造本店]が造る「富久長 八反草 純米 初しぼり 生酒」を合わせます。柔らかな甘旨味にすぅ~っと抜ける感じの喉越しが葱の甘味とジューシーさを口内いっぱいに広げ、くるっと丸めるように包んでくれます。
日本ワインは山形県の[WOODY FARM&WINERY]が造る「ウッディ・ブラン2023」を合わせます。4種の品種の複雑に絡み合う味わいと穏やかな酸が葱の中に染み込むように溶けこんで葱の風味をふわっと広げてくれます。
ノンアルコールでしたら炭酸水にホップを入れて、香りづけに黒文字茶を若干足したものとかも面白そうですね。
- polyphony owner
竹口 敏樹 / Toshiki Takeguchi
映像カメラマンだった20代の頃、偶然立ち寄った酒場で日本酒のおいしさに開眼。独学で日本酒を学び、居酒屋勤務を経て東京・四谷に[酒徒庵]を開店。2015年に[酒徒庵]を閉店し、会員制の日本酒専門店[鎮守の森]をオープン。2021年には、サービスの朝日萌里さんとともに、自らが厨房に立ちラクト・オボ・ベジタブルのコース料理を提供する[polyphony]をオープン。著書に『もっと好きになる 日本酒選びの教科書』(ナツメ社刊)がある。
IG @polyphony2021
- TAGS