お菓子の裏側|宮本吾一さん(GOOD NEWS)と岡住修兵さん(稲とアガベ)の邂逅

「早苗饗レモン」のバタフライエフェクト<前編>


RiCE.pressRiCE.press  / Mar 5, 2025

誰かのプレゼントにも自分のご褒美にも、その先には必ずハッピーな瞬間が待っているのが、みんな大好きお菓子。甘さ、爽やかさ、口溶け、などなど、聞くだけで(読むだけで)脳の気持ちいい部分が刺激されるような言葉たちは、お菓子の専売特許と言っても過言ではない。

今回ピックアップするお菓子、「早苗饗さなぶりレモン」の場合は“しゃりっ、ふわ”が、幸せのシグナルだ。ふわふわ生地のレモンケーキの上面には、今回こだわった新食感のしゃりしゃりしたアイシングが施されている。昨年7月に発売されて以降、[早苗饗レモン 那須本店](GOOD NEWS NEIGHBOUR内)のほか、[GOOD NEWS OSAKA](大丸心斎橋店内)などで販売され、新たなお土産お菓子として評判が高まってきている。

この記事では、その“裏側”を少し掘り下げてみようと思う。シンプルに美味しいお菓子の裏に、実はさまざまな思いが込められている。それを知るのも、お菓子選びの参考の一つとして決して悪くないはずだ。

酒粕とレモンが主役の新感覚の焼き菓子だ

しゃりっ、ふわ、に包まれた酒粕というテーマ

早苗饗レモンの「さなぶり」という言葉だが、なかなか聞き馴染みのないものだ。これは、米農家の風習で、田植えが終わる6月ごろに、田植えの慰労と豊作を祈願するもの。“早苗”の“饗”宴ということで、秋田県などでは今も行う田んぼのお祝いごとだ。

田んぼとレモンケーキがなぜつながるかといえば、早苗饗レモンは酒粕を活用したお菓子だということだ。秋田県は男鹿半島、この地でクラフトサケ醸造所を2021年に立ち上げた岡住修兵さんは、酒粕の扱われ方について長い間課題感を持っていた。

「タンク1本お酒を造るのに使うお米は大体500kgぐらい。タンクで1ヶ月ほど寝かせた上で、お酒を濾す(絞る)工程があり、そうするとお酒と酒粕が出ます。約40〜50%くらい、つまり200〜250kgくらいが酒粕として残るんです。週1本の仕込みペースとすると、月に4本。全て絞るお酒にすると、800kg〜1tくらい出る計算です。うちのような小規模の醸造所でもそのくらいです」

[稲とアガベ]代表の岡住修兵さん

日本酒ができればできるほど増える酒粕。家庭料理に使ったり飼料にしたりと活用法自体はあるものの、量に対して需要は低く、二束三文での取引、もしくは手数料を払ってようやく引き取ってもらうというのが現状もある。

岡住さんは同じ男鹿市に食品加工工場/ショップ「SANABURI FACTORY」をつくり、「発酵マヨ」など酒粕を再活用した商品を製造・販売している。それでも賄いきれない酒粕をどうするか、というのは依然課題だった。

そんな課題をポジティブなチャレンジに変換したのが、GOOD NEWSの代表・宮本吾一さんだった。GOOD NEWSといえば、「バターのいとこ」というヒット作を生み出した那須発の企業。バターのいとこも、無脂肪乳というバターを作る際の副産物をお菓子として価値づけした、というストーリーがある。

GOOD NEWS代表の宮本吾一さん

2022年に出会ったという二人は、単なる商品開発パートナー以上に強い絆でつながっていたようだ。二人の会話を聞いてみよう。

岡住 吾一さんは「バターのいとこ」をまだ全国で手売りしていた時代に秋田にいらっしゃっていて。ちゃんとお話ししたのは2022年4月、男鹿駅前の広場でのイベントでした。僕としては「憧れの吾一さん」だったので、多少緊張しながらお話しさせてもらいました。

宮本 当時、初めて[稲とアガベ]を知って、買って帰りました。家で飲んだらめちゃくちゃ美味しかった。岡住くんは、僕が秋田に行くと必ず男鹿から秋田市まで来てくれて、[永楽]で飲むというのが定番になりましたね。

岡住 よく吾一さんは酔っ払うと、「会ったときはいけすかないやつだと思っていた」って言い出すんです(笑)。でも、「飲んで話すといいやつだよな」みたいな話を毎回するんです。

宮本 岡住くんは人をワクワクさせる才能があるんです。その反面、すごく背伸びをしているんじゃないかと感じていて、「本音で話そうぜ」みたいなことを最初思ったんです。人に夢を見させてくれる一方で、自分の弱みはどこに持っていくんだろうなと思っていて。自分は、“弱みこそ強みになる”と思いながら仕事をしているので、だから、そんなに強がらなくてもいいじゃんという意味です。

岡住 そういうことを言ってくれる人ってなかなかいないんです。単純に一緒に飲んでいて楽しいですし、事業のヒントももらえる。

宮本 今回の(早苗饗レモンの)取り組みも、単に酒粕のアップサイクルではないと改めて気づきました。何かというと、岡住くんが頑張っている男鹿の街づくりに貢献するツールの一つに酒粕の利用があるんだと思っています。僕は生産者を応援することをGOOD NEWSの理念にしていて、もっと言うと「自分の幸せは他者にある」という考え方で事業をしています。発酵マヨのように、僕たちがいなくても岡住くんはやれている。でも、早苗饗という名前を使わせてもらうことの意味も含め、酒粕を利用させてもらうことで僕らも男鹿の街づくりにコミットできると思いました。もっと大きく言えば、日本の過疎化していく町に対しての一つのキーワードになるのではないかとすら思っています。僕は、岡住くんの発射台になれればいいんだなって思います。

岡住 涙出そうになりますね。男鹿は、日本海側に突き出た半島で、古くから大陸との交易があり、色々な文化が流入する場所だったので、秋田県の中でも栄えていた場所だった歴史があります。例えば、なまはげ文化も秋田のものと思われるかもしれないのですが、実は男鹿だけの風習なんです。海も山もあり風光明媚。食に関しても豊かで魅力的な場所です。しかし、人口は減少していて、高齢者の割合が50%を超えている、消滅可能性都市ランキングで上位に入る状況です。こういう場所だからこそできることがあると思って、お酒造りを起点に、色々なコンテンツを広げているところです。

男鹿市の街並み

[稲とアガベ]醸造所は、旧男鹿駅の駅舎をリノベーションした建物。正面には2体のなまはげ象がある

宮本 僕は秋田自体がすごく好きで、秋田市もそうだし大曲や大仙市も魅力的だなと思います。秋田って、日本として昔から大事にしていかなきゃいけなかったこと、だけど無くなってしまったものが詰まっている気がしていて。それはモノや食べ物とかもそうなのですが「人」自体がそうだと感じています。人のことを大切にする温かいところがあったりとか、そんな雰囲気がとても好きなんです。日本では歴史的に、酒造りが街づくりに貢献してきた。その現代版が今男鹿で岡住くんがやっていることだと思うんです。日本の歴史を食文化から紐解くようなきっかけになるのではないかと思っていて、それがお菓子に入ってくることでより引き締まるものがあると思います。異分野のものが組み合わさることで、新たな学びが生まれること期待しています。

岡住 吾一さんの言葉に共感しています。コラボレーションという表面的なことではなく、相互作用し合うことが大きな意味につながっていくのではないかと思っています。お菓子を通して我々の取り組みが伝わるようにデザインしてくださっていることに感謝していますし、これをきっかけに男鹿に行ってみようとかお酒を飲んでみようという思いが生まれることにワクワクしています。

宮本 早苗饗を体験するツアーみたいなのやらない? 実際に田植えを手伝いに行って、みんなでごはんを食べるみたいな。早苗饗レモンが、男鹿のことを知る“メディア”になっていったらいいなと思います。

岡住 ぜひぜひ。田植えは5月ごろにやります。田植えの後に食べるごはんってめっちゃうまいんですよ。そういう体験を提供できるといいですよね。かっこいいアップサイクルの取り組み自体を「さなぶり」と呼ぶようになったらおもしろいです。より広く、持続可能性のあるものにつながっていったらと思います。

後編へ続く。

【2025年2月28日オープン】
早苗饗レモン 羽田空港第2ターミナル店
東京都大田区羽田空港3-4
羽田空港第2ターミナル2階 東京食賓館A
9:00〜19:00
展開商品:
早苗饗レモン オリジナル/ココナッツ/ ピスタチオ 各1箱3個入り
早苗饗レモン アソートBOX(オリジナル・ココナッツ・ピスタチオ・アールグレイ 各3個入り)

Text by Yoshiki Tatezaki
Photo Courtesy of GOOD NEWS

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