お菓子の裏側|真似できない食感と風味の秘密

「早苗饗レモン」のバタフライエフェクト<後編>


RiCE.pressRiCE.press  / Mar 5, 2025

岡住修兵さんと宮本吾一さんの縁が発端となり、日本酒造りの副産物である「酒粕」に新たな価値を生み出す共同作業が始まった。前編では二人の出会いと、秘めたる想いを聞いたが、後編では味づくりとデザインを担ったもう二人の話も聞きながら、「早苗饗さなぶりレモン」の“裏側”にさらに迫ってみる。

前編はこちら

酒粕にまつわるお話を聞くと、さぞ酒粕の風味豊かなお菓子なのだろうと想像するかもしれない。もちろん酒粕がフィーチャーされているのは間違いないのだが、食べてみると意外にも、酒粕感はけっして強くない。しゃり、ふわっ、の特徴的な食感とレモンの爽やかさが口の中を満たしてくれる、新食感かつ心地のよいお菓子に仕上がっている。宮本さんも「酒粕の風味というのは、言われて意識してみるとちゃん出てくるような味にした」と語る。酒粕の味についてすでに何かしらイメージを持っている人、あるいはイメージすらない人両方にとって、酒粕に新しく出会わせてくれる、そんなレモンケーキになっているのだ。

その味づくりを担ったのは、代々木公園[PATH]、白金台[LIKE]などを手掛けるシェフの原太一さん。GOOD NEWSとは以前からメニュー開発で仕事をしていて、その文化も理解する人物だ。

原太一さん

「酒粕だったらレモンケーキが合いそう、と僕が最初に言って、そのアイデアで進んでいきました。日本料理って柑橘をけっこう使うんですよね。柑橘を使った料理と日本酒を合わせたときに合うなと改めて感じたし、以前に酒粕のお菓子を作ったときにレモン汁を入れたら味が締まって美味しかった。日本酒と柑橘の関係性が自分の中にあったから、すっとアイデアが出てきたんだと思います。シンプルなレモンケーキを目指しているけれど、『なんだろうこれは』くらいで酒粕が効いている、他では真似できないものを作りました」

原さんによる味わいの見立てはもちろん正解。さらに早苗饗レモンを個性的なお菓子たらしめるのが、その食感だ。“しゃり、ふわっ”の食感の秘密を教えてもらった。

「蜂蜜などのように液状の糖類を入れると、しっとりが続くんです。それから材料のちょっとした配合でしっとりふわっとした食感に調整していきました。しゃりしゃり感というのは、自分にとってのレモンケーキでとても重要なポイントでした。ホワイトチョコレートでコーティングされるものが多いですが、そうではなく、シンプルなレモンの果実味としゃりしゃり感を再現することを目指しました。さまざまな試行錯誤をしました。いろんな記事を漁って、メーカーの方に相談したり、工夫を繰り返しました。お店でつくるデザートと、お土産菓子って考え方が違うんだなって改めて感じました。その手のプロがいるのが納得です」

早苗饗さなぶりレモン一つに酒粕が約2g使われています。1万個作って20kg。岡住くんのところでひと月に出る量に及ばないんです」と宮本さん。「それぐらい酒粕って出ているんです。全てを賄うまでにはいきませんが、できるだけ使いたい。『酒粕を使うのって面白いんだな』というメッセージになれば。子どもも大人もみんな食べられるお菓子というものに、酒粕を食材として使っていくということが今回の意味になると思います」

「早苗饗レモン ASSORTED BOX」には、定番フレーバー(オリジナル・ココナッツ・ピスタチオ)と、アソートBOX限定の「アールグレイ味」が3個ずつ入る(税込¥3,456/オンラインショップからも購入可能)

 

膨大な量の酒粕が出るという現実と、それを少しずつでもポジティブに活用していこうという思いは、パッケージに記載されている「1/32000」という数字に表れている。32,000tというのは、国税庁が試算する年間の酒粕生成量(令和5年数値より)。そのうちの1になれるように。パッケージデザインを手掛けたアートディレクターの平野暢達さんは、デザインの狙いを次のように話してくれた。

「酒粕のことを説明しすぎず、1/32000にいい意味で引っかかって掘り下げてもらえたらいいと思います。でも主役はお菓子なので、レモンケーキが立つようにしたいと思いました。試食させていただいたときに感じたレモンの爽やかさが印象的で、レモンだけに黄色を入れて際立つようにしました。以前からGOOD NEWSのデザインは、変わっているけど変じゃない、そこが面白いなと感じていました。わかりやすいだけじゃない、そのあたりのバランス感がいいなと思っていたんです」

那須本店に並ぶ商品。お店の壁の塗装には酒粕が使われていて、「独特な表情が面白んです」とは原さんの言。「飲食業界だけではなくて、色々な人の知識を集結させれば問題解決に向けて進むこともできるのではないかと思いました」

美味しいから始まるストーリーが早苗饗レモンにはある。そして、それはまだ始まったばかり。

「『始まり』を祝うというのが早苗饗という言葉だと思いますが、早苗饗レモンが“実り”を迎えるには、これからたくさんの人たちに知ってもらうことからだと思います」と宮本さんは語ってくれた。

「岡住くんが思い描く男鹿の街づくりが一歩ずつ前進して、稲とアガベや早苗饗レモンがもっと世の中に出ていくというのがゴールかなと思います。僕は発射台になれればと言ったけど、本当に僕たちを支えてくれる発射台はお客様や読者の方々だと思っています」

蝶の羽ばたきのようなわずかな動きでも将来の状態を変化させうる——キーパーソン4名のインタビューを通じて、美しきバタフライエフェクトを想起させる可能性すら、そのお菓子から感じたのだった。

【2025年2月28日オープン】
早苗饗レモン 羽田空港第2ターミナル店
東京都大田区羽田空港3-4
羽田空港第2ターミナル2階 東京食賓館A
9:00〜19:00
展開商品:
早苗饗レモン オリジナル/ココナッツ/ ピスタチオ 各1箱3個入り
早苗饗レモン アソートBOX(オリジナル・ココナッツ・ピスタチオ・アールグレイ 各3個入り)

Text by Yoshiki Tatezaki
Photo Courtesy of GOOD NEWS

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