連載「おい神保(おいしんぼ)」 ~サラリーマンランチ紀行~

第4回 ライスカレーとトンカツ!最強のフュージョン!


Kohei YamaguchiKohei Yamaguchi  / Feb 23, 2025
神保町…曰く、古本の街。
曰く、カレー激戦区。
曰く、喫茶店の聖地。
曰く、中華街(チャイナタウン)。
そんな様々な異名を持つ食と活字のシャングリラ、神保町。
とりわけ昼飯については全国津々浦々比較しても頭一つ抜けた選択肢の多さにより、界隈のサラリーマン達の心と胃袋を満たしており、停滞を続ける日本のGDPに対して、神田一帯、午後のGDPは上昇の一途を辿っているとか、いないとか…。
そんな神保町で勤続10年となる筆者の昼食雑記が、この「おい神保」である。

カレーとトンカツ…。両者共に筆者の大好物であり国民食とも言うべき人気を誇る料理である。そして今回は、ソレら2つが融合(フュージョン)したカツカレーという料理について記したい。

まず結論から申し上げると、筆者は「カツカレー」が嫌いである。

完全に偏見が入っているかも知れないが、最近の「カツカレー」というものは、カレーかカツどちらか一方の主張が強すぎると感じる。

「カツカレー」ではなくおいしいカレーとおいしいトンカツをそれぞれ別で食べている感覚。ドラゴンボールに例えると悟空とベジータが強敵に挑む際、交代制で戦っているような感じだ。

お互い一級品の実力を持ちながら、その強敵を倒すにはそれぞれあと少しずつ実力が足りない…。こういった時には「フュージョン」するしかないのだ!

そんなカツカレー業界において見事に完璧なフュージョンをこなして「ゴジータ」*注1 的おいしさのカツカレーを提供するのが[ライスカレー まんてん](以下、まんてん)である。

注1 ゴジータ
孫悟空とベジータの2人がフュージョンをしたことにより誕生した融合戦士。名前の由来は悟空とベジータの2人の名前を合わせたものである。

昼時は常に30人程度の男行列が発生している超人気店だ。ここも[うどん 丸香]同様に、行列に怯まず進めば20分前後でライスカレーにありつくことが出来る。

筆者もここでは嫌いなカツカレーを思わず頼んでしまうほど、[まんてん]のソレは卓上で見事な調和を生み出す。

入店したらまず、大将の威勢のいい挨拶で胃袋が刺激される。注文を聞かれたら「ジャンカツ」(ジャンボカツカレー)を大きな声で注文しよう。思わずかき込みたくなるココのカレーは大盛を超えたジャンボで!

その後、すぐにコップ水と小さなカップが卓上に提供される。コップ水にはスプーンが刺さっておりコレがまた昭和を彷彿とさせる光景で見ていてオツである。

少し待つと揚げたての薄ーいカツの乗ったジャンカツがやってくる。30を超えた体には思わず怯む大きさだが食べ始めたら無問題だ。店内を見渡すと初老を超えたであろう先輩もおいしそうに「ジャンカツ」を頬張っている。

ジャンカツに乗っているのは薄ーいカツなのだが上述したフュージョンを完璧にこなすにはこの薄ーいカツであることが肝要。ライスカレーはねっとりとしたひき肉入りのルーでかなりシンプルだ。

平成や令和の時代では先ずお目にかかれない昭和を体現したようなライスカレーのナリでキレンジャー*注2 が任務の前に大盛で3枚食べていそうな情景が浮かんでくる。

注2 キレンジャー
スーパー戦隊シリーズ第1作目
秘密戦隊ゴレンジャーに登場する戦士。ゴレンジャーのムードメーカーでカレーライスに関しては目がなく、敵が用意したカレーでさえも我慢できずに食べてしまう。

「フュージョン」…。ドラゴンボールファンの方であればお馴染みであると思うが、つまるところ融合である。

原作では悟空とベジータの息子、悟天とトランクスがフュージョンしゴテンクスとなり劇場版「復活のフュージョン!悟空とベジータ」では主人公、孫悟空とそのライバル、サイヤ人の王子ベジータがフュージョンしゴジータとなった。フュージョンにはお互いが発するエネルギーを同じ量に調整しないとうまく融合できないという設定があり、カツカレーも同様であると筆者は思うのだ。

昭和然としたライスカレーには林SPF豚のようなジューシーな脂を放つトンカツは合わないし逆も然り、スパイス感満載の本格カリーだとカツがカレーに負けてしまうのではないか?

カツカレーに肝要なのは調和である。カツとカレーが5050でバランスが取れている状態。カツとカレーの味覚の導線がシームレスに溶け合い口中で「ビッグバンかめはめ波」*注3を放ち旨さに脳みそが揺れる味。5050のバランスが少しでも崩れると、この感動体験は味わえない。

注3 ビッグバンかめはめ波
ゴジータの使用する技
孫悟空のかめはめ波とベジータのビッグバンアタックの融合技

ちなみにカツの部分には必ずウスターソースをかけて食べることを推奨する。

カツカレーというヘヴィーな食べ物のジャンボ=特盛を食べるのだからウスターソースの酸味というアクセルでスプーンの上下運動を加速させるのだ。ひとしきり食べた幕あいではコップ水を一気飲みしよう。

このコップ水が絶妙な量と温度でカレーの一部かと思うほどに旨いのだ。氷が入っていないのも良い、一気飲みの場合、氷はノイズだ。そしてこれは神保町イチ旨い水の飲み方である。

水がなくなったらセルフで継ぎ足し、また黙々とジャンカツと向き合う。これを数セット繰り返す為、席は水汲み場に近いと吉だ。

いつのまにかなくなったジャンカツ。最後に〆るのは卓上に残された小さなカップ。チャコール色のその液体は「レーコー」。冷えたデミタスコーヒーである。少し濃い目でエスプレッソのようにパキッとした味わいであるがちびちび飲んでは行けない、男の餌場である。聖地[まんてん]ではコレを歯につけぬように一気飲みして「ゴッソウサン」と言い、予めポッケに入れていたお釣りなしのジャリ銭を店員に渡してスッと退店するのである。コレが神保町流のエスプリに富んだ昼メシの食い方なのだ。

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