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ラーメン熟考
第3回 種物中華そばを整理する 〜そばやうどん由来の種物中華そば(後編)〜
日本的な種物中華そばを更に掘り下げていく。
前編はコチラ。
【天(ぷら)中華】
蕎麦やうどんの天ぷら乗せを中華に転じたものだが、油で揚げるということもあって、もともと油脂分を持つラーメンと組み合わせると「くどい」というイメージを与えてしまうからか、天ぷら蕎麦、うどんの普及率と比べると低い種物と言わざるを得ない。だが、全国には各地に天ぷら中華が分布しており、根強く愛されている。青森や宮城では天中華と呼ばれ、姫路や西日本では黄そば(黃ぃそば)と呼ばれる中華麺に和出汁をかけたものもあり、そこに天ぷらが乗る。また、路麺(立ち食いそば)でもトッピングに天ぷらが乗せられるお店もあり、ルーツを持たずに発生した天ぷら中華と言えるだろう。
[大盛庵](仙台市太白区長町)
「蕎麦屋の中華そば」はときとして本筋の日本蕎麦の人気をしのぎ、お客さんの大半が注文する人気メニューとなることもあるが、天ぷら中華となると提供するお店は限られる。仙台の[大盛庵]は、天ぷら中華が一番人気。なんといっても、提供時にパチパチと揚げたての音が聞こえてくる海老天が魅力。その揚げ油がおぼろげにスープへと拡がってくると、ラーメン的な油の使い方とは違う味わいへと変化する。
【餅中華】
以前に『餅中華の世界』としてまとめたものがある餅入りの中華そば。蕎麦屋、甘味処には餅が入れられるところが多いが、ラーメン専門店で入れられるところは非常に少ない。
[富士見野](新井薬師前)
創業1934年(昭和9年)。三代目夫婦が営む甘味屋。変わりゆく中野にあって時間がやや止まった感のある薬師あいロードに佇む。自家製の杵つき餅を丁寧に焼くところに甘味屋の矜持が滲む。その餅がスープに溶け合ってくるところが美味しさのポイントだ。
【月見ラーメン】
蕎麦、うどん店ではポピュラーな生卵のトッピング。見た目の遊び心だけではなく、味をまろやかにし、栄養価にも優れた卵トッピングだが、中華そばは、どちらかというとゆで玉子(味付け玉子)がかなり支配的だ。生卵はすき焼き風に麺をつけ、食べるものや、油そばのトッピングとして使われ、どちらからというと麺にまぶす傾向が強い。力強いスープを希釈したくない心理からかもしれないが、所謂味変アイテムとして溶かしどころを自分なりに楽しむ活用方法も魅力だろう。
[中華そば共楽](東銀座)
東京ラーメンの代名詞として3代続く名店にも生卵のトッピングがある。むしろ、味玉がなく、お店として生卵を落とす食べ方を推奨しているともいえる。濃いめの醤油味に油、煮干しの香り。現代的な味の強さを兼ね備えながら、スープをアレンジしていく柔軟性を提案する懐の深さが、老舗の魅力である。
【とろろそば(やまかけそば)】
とろろが別盛りになって提供されるものをとろろそばといい、汁物の上にかけたものはやまかけそば、と一般的に言うらしいが、ここは一緒に扱うことにする。とろろをつけ麺のスープに入れた「もりとろ」を定番メニューとして提供したのは、[東池袋大勝軒]の山岸一雄さんだったが、濃いスープとの相性からかラーメンではあまり普及していない。
[ラーメン巌哲](早稲田)
2025年3月末で閉店が決まっている[巌哲]。季節ごとの準レギュラーメニューともいうべきものの中に「山」という冷やし麺がある。蕎麦的に食べるメニューではあるが、中華麺の良さをダイレクトに味わう意味で蕎麦やうどんと大きく違う。ただ、とろろが絡んだ麺のすすり心地の良さは共通。麺がいくらでも食べられると錯覚してしまうほどだった。
【納豆そば】
日本蕎麦の世界でも納豆そばには種類がいくつかあり、冷やしぶっかけのトッピングとして、というパターンが多いが、[大坂砂場]には卵と納豆と撹拌したものが乗る。ラーメンにはどちらかというと後者のものが多い。
[らーめん天神下大喜](御徒町)
まさにその[大坂砂場]をモチーフに作った遊び心溢れる限定メニューだったものが、レギュラーメニューへと昇華した。果たして和心あるラーメンに納豆が、ここの醤油ラーメンには運命的に合っていて、こればかり食べる固定ファンもいるくらいである。
【きつね】
蕎麦ではスタンダードのきつね(お揚げ)も中華にはほとんどみられない。刻んでいれるところもあるが、人気の甘く煮付ける揚げはラーメンとは相性がよくないのだろうか。
[中華蕎麦きつね](芦花公園)
揚げを刻んで冷やしにいれるお店はいくつかあるが、煮付けた揚げを入れるお店はここくらいではないだろうか。かといって違和感があるわけではなく、ふわふわの揚げが濃密にスープによく合っている。スタンダードなメニューを新しくみせたアイディアの勝利である。
【牡蠣そば】
冬場の牡蠣そばも人気が高い。旨味も栄養価もたっぷりと含まれている海のミルクは、スープに入れると牡蠣の風味を徐々に広げていく非常に影響力の強い種物だ。強いスープのラーメンとの相性も当然いい。最近は、ミキサーしたペーストをスープに混ぜ込む店も増えたが、種物としての魅力を再度発見したい。
[キッチンきらく](神保町)
[麺や七彩]のグループだが、取り扱う素材、メニューはまさに七変化。ただ、やはり稲庭中華そば(麺)を使った中華そばの素晴らしさは抜けている。季節折々のメニューが見逃せないが、牡蠣があったなら是非食べるべき。端正な稲庭中華の麺と鶏のスープに牡蠣のエキスが上品に溶け込む。
- Ramen Archiver
渡邊 貴詞 / Takashi Watanabe
IT、DXコンサルティングを生業にする会社員ながら新旧のラーメンだけでなく外食全般を食べ歩く。note「ラーカイブ」主宰。食べ歩きの信条は「何を食べるかよりもどう食べるか」
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