ラーメン熟考

第4回 日本発!独自発展した種物(前編)


Takashi WatanabeTakashi Watanabe  / Mar 22, 2025

前回まで読んで、「もっとポピュラーな種物たねものがあるんじゃないか?」と思った人もいるだろう。そういった人は今回で溜飲が下がるだろう。タンメンなど、よくみる種物たち。そもそものチャーシュー、メンマ、ナルトが乗った「ラーメンという種物」はここに該当する。

・タンメン
・もやしそば
・ニラそば
・ねぎそば
・スタミナラーメン
・カレー

【タンメン】
最もポピュラーな種物といえば、タンメンになるだろうか。タンメン(湯麺)という言葉自体はもともと中華料理で、「スープに麺が入ったもの」を表すが、それが日本では転じて炒めた野菜が乗った塩ベースのラーメンとなった。発祥は定かではないが、一説には横浜の一品香とも言われる。塩ベースであるところに中華式のルーツを感じるが、それに該当する料理は中華には見当たらない。また、炒めた野菜をスープと煮ることがベースになっているが、炒めたものをそのまま乗せたり、応用したりアレンジをしたメニューの裾野は相当に広い。横浜発祥だとすると生碼麺サンマーメンから派生したとも言える。また、◯◯タンメンというご当地ラーメンとして売り出そうとする地域もいくつかある。

中華料理 大宝](白金高輪)
野菜が入った繊細でヘルシーなタンメン、というイメージを覆すジャンクなタンメンの名店。ニンニクをバーンと叩き、繊維を潰したものをたっぷりと入れ、野菜と炒めていく。塩分も高く、とにかく一口目からインパクトがある。また、このお店は種物中華の宝庫で、もやし、天津、広東、五目と揃える。営業時間は大まかにしか決まっておらず、およそ目安の時間だと思ったほうがいい。

【もやしそば】
これもタンメン同様に生碼麺がルーツとなっている可能性があるが、餡かけ状になっているか否かも含め、単純にもやしを中心としたメニューとして日本式に発展していった。食料が乏しかった戦後に最低限の材料で作るメニューとして拡がっていったことが予想される。タンメンとは違い基本的に醤油ベースである。

流。](東十条)
冬季の限定メニューとして毎年登場する名物メニュー。こちらはフル餡かけタイプ。煮干しスープをアレンジしており、現代的なスタンスでクラシックなメニューを復刻させている。故に若いファンも多く、こういったメニューを食べ、老舗へと向かう流れができるといい。ラーメンは新しいアイディアの積み重ねではなく、これまでの料理の磨き直しで発展してきた歴史である。

【ニラそば】
最近人気が出てきたニラそば。新世代のニラそばも登場し、今後ますます増えてくるかもしれない。基本はニラ炒めがラーメンに乗る。そういう意味では後述のスタミナとも被る側面がある。香りがスープに移る影響度でいえば種物でも最も強いものだと言えよう。ルーツは番号中華(※十八番や一番のように番号が屋号に入っているお店のこと)の元祖である神田にあった[五十番]と言われている。また、名古屋発祥のご当地ラーメン台湾ラーメンも広義にはこのカテゴリーに入れてもいいだろう。

らーめん森や。](戸塚)
およそ一般的にはニラそばといってこういったメニューを想像しないだろう。新鮮なニラをきれいに拭き上げ、醤油ラーメンに乗せるタイプ。だが、この質の良いニラをスープに浸すとじわじわとニラの出汁が拡がっていくのがこの上なく楽しい。種物とはスープとの調和である。この真理を一番味わえるシンプルな種物メニューの傑作。

【ねぎそば】
ねぎそばが多くみられるのは横浜中華街である。ただ、香港の薑葱撈麺キョンチョンローミン(汁なしでネギの短冊切りがたっぷりと乗せられている)などはあっても、汁物のネギそばは中国や香港で見られず、日本(中華街?)発祥ということでこのカテゴリーに入れた。ネギをどっさりと入れたメニューというと裾野は広がるが、それはラーメンとネギの相性がいいからである。ネギは切り方で印象も影響も変わるが、ここでは薬味としてのネギではなく準主役としてのネギそばを取り上げる。ラーメンショップなどもネギそばの一種かもしれない。

中華そば まる㐂](松戸)
中華料理出身の店主よる中華(街)寄りのネギそばを[永福町大勝軒]譲りのスープと合わせる、まさにこの企画のためにあるようなメニュー。ネギ大盛りも注文できる(有料)。通常のラーメンでは香味のためにスープの表面に高級ラードが敷くが、このネギそばはラードを入れず、ネギから染み出す出汁を楽しむ趣向。心憎い。冬季の期間限定。チャーハンも抜群に旨い。

【スタミナラーメン】
種物の中で最も定義付けが難しいのが、このスタミナラーメンである。広義の意味では、ニンニクやニラ、玉ねぎなど香りが強いものを具沢山の食材と炒めて、ボリューム満点でスタミナがつくようなラーメンを指すが、狭義的に水戸のスタミナ(冷やし)ラーメンや奈良の天理スタミナラーメンや愛知のベトコンラーメンなどのようにコンセプトは同じでもご当地ラーメンとして認知されているものまである。今回は、種物中華そばのガッツリ担当という位置付けで収めたい。

緑町生駒](錦糸町)
生駒軒の系譜。日本一予約が取れない街中華と言っても過言ではないだろう(ランチは並べば食べられる)。スタミナラーメンは創業初期からのメニュー。所謂、広義の意味でのスタミナラーメンのスタンダードである。中華由来の種物でも出てくる排骨麺パーコーメンも十八番で、このスタミナラーメンにトッピングすることもできる。汎用の街中華の麺よりはやや番手の大きい細麺を用いているのも良い。

【カレーラーメン】
カレー南蛮は蕎麦、うどんにはあるが、カレーとラーメンは昔から融合を試みてきたことから、このカテゴリーに収めることにした。ただ、2大国民食の噛み合わせはこれまで多くの店がトライしたが、最適解がない。どちらの良さも活かして、となると余計に難しく、最近はスパイスラーメンというカテゴリーで模索が続いている。

らーめん えにし](戸越銀座)
「マサラーメン」という名で夏季限定提供されている。鶏ひき肉のキーマを塩ラーメンに乗せるというシンプルな作品だが、これくらい控えめのほうがラーメン要素が多く残る。えにしはレギュラーメニューも季節の限定も含め、すべてが名作。ラーメン好きのキャパシティを必ず広げてくれるはずだ。

次回は、日本発!独自発展した種物の後編。中華料理風だが日本独自の種物として今回と分けお送りする。

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