
波平龍一の暮らしの料理
第三回 西多摩の春。のらぼう菜の春。
「東京の旬」を味わう
やっと、春が到来しましたね。
新しいことがどんどん起きるこの季節。寒さで縮こまった
二年ほど前に東京の青梅市に移り住んでから、3月に入る頃になると毎年とある「東京の旬」に触れる機会が増えます。それがタイトルにもございます「のらぼう菜」というお野菜。
いわゆる菜花の一種なわけですが、このお野菜は西多摩においては特別なありがたいお野菜なのです。のらぼう菜様の功績については、またレシピをお伝えしてから少しお話しいたしますね。
直売所やスーパーで見かけるのらぼう菜は柔らかく、クセが少ないものがほとんどですが今回は妻がお世話している自然農の畑からやってきたワイルドのらぼう菜を使用したレシピになってます。
広く出回っているものに比べると、ずっしり重たく葉がめちゃめちゃ分厚いですが、歯切れは良く甘味もぎっしり詰まっているので僕はワイルドな方が好みです。
のらぼう菜が手に入らない!と言う方は、一般的な菜の花で作ってもらえればOKです。
主役を堂々と務め上げてくれるビジュアルでありながら、ささっと作れる一皿になってますので、春が終わる前に気軽にチャレンジしてもらえたら嬉しいです^^
RECIPE|のらぼう菜と鶏もも肉の焼き浸し
【材料(2人分)】
・鶏もも肉 一枚
・のらぼう菜 ひとつかみ(60〜80g)※一般的な菜の花でもOK
・水 コップ一杯(150ccほど)
・塩 2〜3つまみ
・醤油 ほんの少し(ティースプーン一杯くらい)
・酒 大さじ2杯くらい
・粒マスタード お好みの量添える【手順】
①のらぼう菜を焼く。
油は使わない。水洗いしたのらぼう菜を適当に水を切ってフライパンに乗せ、写真のようにお玉などで底に押し当てながら焼き目をつけて別皿にあげておく。
②鳥もも肉を焼く。
熱していないフライパンに皮目を下にして鶏もも肉を置いて塩2〜3つまみほどで味付けをし、極弱火で皮をパリッと焼く。10〜15分くらいじっくり焼いてる間に鶏油がしっかり出るので、この時も油は使わない。(鉄フライパンを使用する場合は皮目に油を塗って焼く。)③鶏だしを作る。
鶏もも肉をひっくり返して、コップ一杯の水を加え弱中火にする。醤油をほんの少し加え、酒を加える。鳥もも肉に火が入るまで優しく煮る。④盛り付ける。
焼いたのらぼう菜をフライパンに戻して温める。鶏もも肉とのらぼう菜を盛り付け、鶏だしをかけたら完成。お好みで粒マスタードや、柚子胡椒などを添えるのがおすすめ。
のらぼう菜様にありがとう
江戸時代の中期に起きた天明・天保の大飢饉の際に、今でいうところの埼玉県中南部から西多摩のエリアで栽培が始まり、人々を飢饉から救ったありがたいお野菜とされているのらぼう菜。妻の畑があるあきる野市の
これだけ崇め奉られていながら、春になれば今でもさりげなく西多摩の皆さんの食卓に上がり日常の食材として親しまれているのがなんかいいですよね。絶妙なヌケ感漂うお名前に親しみやすさを感じ、売り場でなんとなく手に取るって言うパターンも多いのかなって気がします。とんでもない功績を残していながら、偉ぶるわけでなく、ただ自然体で暮らしている大人物のようなのらぼう菜様。かっこいいです。みんながみんなこの野菜の歴史を知っているわけではないというのもまた、西多摩とのらぼう菜のちょうどいい関係性を作っているのではとぼんやり思いつつ頂きました。
考えてみれば、江戸の時代から繋がれてきた歴史を今もこうやって味わえるのはたくさんの人々のおかげなんですよね。大感謝です。
毎年畑からいい感じの量を持ってきてくれる妻にありがとう。
長い間、大事にタネを繋いできてくれた農家の皆さんにありがとう。
そして何より、変わらずに西多摩の土地で春を告げてくれるのらぼう菜様にありがとう。
この日合わせて楽しんだお酒は、前回に引き続き御前酒蔵元辻本店さんからの一本。御前酒ファンが、毎年発売を待ち望んでいる年末限定の人気銘柄「引き抜き」でした。昨年末に飲んだ時よりも苦さ渋さが一段穏やかになり、甘味と旨みがいい具合に存在感を増しているように感じました。春の旬菜類が共通して持っているほんのりとした苦味が作用したのでしょうか。
もう少し寝かせておけば、また違う表情を見せてくれそうだなあなんて話をしながら、気付いたら飲み切っちゃってました。日本酒を寝かせるって本当に難しいです。
旬の味覚と、おいしいお酒で春スイッチをオンにした夜。外はまだ肌寒かったですが、のらぼう菜様のおかげで春を先取りできたように感じ、いつも以上に幸せな食卓になりました。
- 暮らしの料理 調理担当
波平 龍一 / Ryuichi Namihira
1993年、神奈川県出身。大学卒業後、東京の懐石料理店にて料理人としてのキャリアをスタート。その後、京都に拠点を移し、中東篤志氏に師事。現在は、東京あきる野にて自然農に取り組んでいる、妻の波平雪乃と共に[暮らしの料理]の屋号で晩御飯企画を主宰。 その他イベントへの参加や商品開発を中心にフリーで活動中。
IG @namihei_kome