
#僕に発酵できないものはない
第三回 「納豆菌で鰆を発酵させてみた!」
枯草菌という発酵菌をご存知でしょうか?
大豆を納豆菌の働きで発酵させると、ご存知納豆ができますが、この納豆菌も枯草菌の一種です。今回はこの枯草菌を使った新たな発酵に挑みます !
枯草菌の実験に移る前に抑えておきたいポイントは三点。
①藁にたくさん付着している菌。
枯草菌は、土の中や植物の表面、空気中など自然界のどこにでも存在します。とりわけ 「枯れた草」の文字通り藁に付着していることが多いので、枯草菌という名前が付いたんだとか。
②過酷な環境でも生き延びる最強の菌!
様々な過酷な環境でも生きていけるのが納豆菌の最大の特徴。高熱や酸、消毒液をかけても殺菌できないんだとか。
③食材中のタンパク質やデンプンを分解する
枯草菌は酵素を出し、タンパク質をグルタミン酸に、デンプンをブドウ糖に分解する力があります。グルタミン酸とは、いわゆる僕らが口にしたときのうま味。大豆は植物性のタンパク質が豊富な食材なので、発酵し納豆になるとうま味が増えるのはこのような理由からです。
枯草菌以外にタンパク質やデンプンを分解する発酵菌としては他に麹菌がいます。枯草菌と麹菌は生命活動の餌となる成分が共通してるんですね。
普段、麹菌を扱う日本酒造りの杜氏さんや酒蔵見学者が納豆を食べることが禁止なのは、酒蔵内に納豆菌が増えたら、育てている麹菌と餌を競合してしまうからなんです。
さて、この三つのポイントを押さえたところでそろそろ本題。
昔ながらの納豆の作り方は、藁を煮沸することで納豆菌以外の雑菌を殺菌し、その藁で大豆を包むことで唯一生き残った納豆菌が大豆のタンパク質を発酵・分解させて納豆が完成するわけです。
ここまではネットや文献で少し調べれば出てくる内容ですが、僕はこの原理を理解した時にふと思いました。
“納豆菌を大豆じゃなくてタンパク質豊富な他の食材に付けて発酵させたら、うまく発酵して面白い食材ができあがるんじゃないか”と。
僕は今のレストランができてからこの三年間で、麹菌を使い魚のタンパク質を発酵させて味噌を作ったり、お肉のタンパク質から醤油のような液体調味料を作ったり(どれもとても美味しい!!!)、大豆以外のタンパク質を発酵させることに成功してきました。
同じように枯草菌でも動物性たんぱく質を発酵させてみたいと思い、今回の実験に至ったわけです。
今回選んだ食材は、今が旬の鰆と出回り始めた枝豆。
白身魚の中でもタンパク質が多めの鰆と、大豆の未熟果である枝豆は大豆程ではないですがタンパク質豊富な緑黄色野菜。なおかつ大豆に近しいタイプのお野菜なので、大豆納豆に近いものができるのかもと淡い期待。
ensoで食材を藁焼きにするために常備している稲藁。ホームセンターやネットで手に入ります。目には見えないですが、この中に納豆菌やその他雑菌もたくさんいるはず
鍋で藁を煮沸します。熱耐性のない雑菌を殺菌し、納豆菌だけが生き延びている状態
枝豆も同様に煮ます。納豆菌の出す酵素が枝豆のタンパク質を分解しやすくなるように、柔らかくなるまで煮ました
煮た枝豆と、同じサイズにカットした鰆の身
それぞれタッパーの上下に煮沸消毒した藁をひき、間に枝豆と鰆をそれぞれ挟みます
納豆菌の活動が最も活性化するのが40℃という温度帯。
タッパーごと保温機で24時間暖め、その後一晩冷蔵庫で寝かせて熟成させます。
翌日表面の藁を取り除いてみると……
これはっ!!
醸ってる!!!!
どちらも表面にうっすらと納豆同様の白いネバネバっぽいやつ、枝豆は多少くすんでいるとはいえ素材本来の緑色も残り美味しそうな色。
これは期待できそう!
どちらも藁を外して、混ぜてみます。
ネバネバが増しました!
この納豆のネバネバの正体は、納豆菌が出す酵素で豆のタンパク質が分解されてできたポリグルタミン酸。
簡単に言うとタンパク質が分解されグルタミン酸に変わる途中の状態。
グルタミン酸が鎖状に繋がっていて、納豆を食べる前によく混ぜるとこの鎖が切れてポリグルタミン酸がグルタミン酸になりうま味が上がります。
一方鰆ですが、枝豆同様に糸を引いていると共にほんのりと不快な匂い。。。
本能的に食べてはいけないものだと感じた。
隣にいるスタッフの顔もしかめっ面に。
鰆は発酵と共に腐敗も進んでいるのは、枝豆に比べて付着している微生物が多いことや酸化しやすいことが起因していると思われます。世の中にお魚やお肉を納豆菌で発酵させたものが流通していないのはこのような理由かもしれませんね。
気を取り直して成功した「枝豆納豆」で新しいお料理を試作してみました。
大豆や枝豆など豆をテーマに、大豆のムースやフルーツトマトのコンソメスープ、枝豆納豆は乾燥させたのちパウダー状に加工し、うま味パウダーに。
こちらのお料理はもう少しブラッシュアップさせて5月からレストランで提供予定です。
- enso chef
藤井 匠 / Takumi Fujii
六本木[ブリコラージュ ブレッド & カンパニー]の開業時から料理長として活躍。2022年4月、鎌倉に[enso]をシェフとしてオープン。鎌倉を中心とした地場の野菜に、自ら発酵させて作る調味料をかけあわせた料理が注目される。
IG @enso_osaji
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