おいしい裏話
「こってりロシア」 (RiCE No.9) に寄せて
アキ・カウリスマキの映画のような乾いたユーモアというか、笑顔の裏にある冷たさというか、あの独特の間がある雰囲気をフィンランドではしみじみと味わえる。 私がヨーロッパの人に対していちばん違和感を感じるのは、夜ご飯に冷たい肉類を取ることで、すごい家だとハムとサラミだけみたいなこともある。なんでもいいから熱いものが食べたいと思うが、日本の寿司だって海外の人から見たら似たような意味かもしれないし、ありうることなのだろう。 フィンランドで一軒だけ、本誌に書いた分類の中の、金と鏡とガラス系、古き良きフィンランドの店に行ったのだが、気分としてはちょうど「香味屋」のような感じだった。こってりとしたトナカイの肉、クリームとキノコの濃厚スープ、ニシンのフライ、クリームとバターが合わさったふわふわのものをパンに塗る感じ。これでもかとやってくる濃い油の雰囲気に、あの、油っぽい丸太のように太った人がどうしたらできるのかわかる気がした。
この裏話に出てくるお店 : ラヴィントラ・コスモス https://www.tripadvisor.jp/Restaurant_Review-g189934-d806302-Reviews-Kosmos-Helsinki_Uusimaa.html
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年8月『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。近著に『下町サイキック』がある。
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