HEAVENS KITCHEN
ソウダルアと壱岐島 その3 〜島と海と人と神の晩餐会〜
お久しぶりになってしまいました。
ソウダルアです。
前回が冬のはじまりだったというのに、あっという間に春が訪れてしまいました。
僕のなかで、この物語を自分のなかに入れておきたいような気持ちがあり手放せずにいたのかもしれません。
しかし、いつまでもそうも言っていられないので、結びの章として島の晩餐会について書かせていただきます 。
三日間かけて、島を巡り、集めた食材たちを余すことなく味わいつくす。
そのはじまりの一品はみなとやの漁志さんが釣ってきてくれたお魚のアラをひたすらに煮込んだ海のエキスたっぷりの出汁と、島独特のコクを持つ豆腐。さらに、爽やかな香りのあおさを合わせた冷たいスープ。
一日、島を楽しんできたみんなの心と体の火照りをすこし冷ましながら、これから始まる宴へと誘います。
古事記によるとイザナギ、イザナミの二人が五番目に産み出したとされる壱岐島。その流れを踏まえ、最も島の味覚が凝縮されたいろいろな海藻とヤリイカを丸ごと使ったソースで、淡路島から四国、隠岐島、九州、最後に壱岐を描き、一息にぐるりと一周。そこへ一気呵成に、島のサザエと甘みたっぷりの夏野菜を合わせれば、むせかえるような磯の香りとじゅわっとジューシィな甘みが広がります。ぱつんっと弾ける野菜の皮目と、こりっ くにゅっ としたサザエ。とろりとしたジュレと踊るような食感がたまりません。
漁志さんが見事に捌いてくれた(「餅屋は餅屋」がソウダルアの流儀なので甘えてしまいました)壱岐の魚たちは大葉や胡瓜にほのかに柚子を効かせたソースでいただきます。しゃっきりと切れ味よく澄み切った島の魚に爽やかな青い香りが味に輪郭をもたらします。
そして実は、麦焼酎発祥の地でもある壱岐島。その焼酎に漬け込んで、ゆっくりゆらゆらと温泉に入れるように何時間もかけてあたためる、幻の壱岐牛。表面を炭火でがりっと焼き上げて仕上げます。適度な脂がじゅわり。あとからくる豊かすぎる旨みの赤身。さらに壱岐の名産の雲丹と卵黄のソースと共にいただくと、口の中は贅の極み。
最後の〆は古くからお祝いごとには欠かせない、ちらし寿司。壱岐の海と山とが入り混じったちらし寿司を、気づけばみんな素手でわっしゃわっしゃと食べていきます。好きな具が乗ってるところめがけて、お気に入りのソースにつけて、壱岐そのものをいただきます。
お酒に酔っているのか、美味しさに酔いしれているのか。この家族みたいな空気にあたたかくなっているのか。
島にいらっしゃる、たくさんの神さまたちと一緒になれるような晩餐会が産まれたように思えたのです。
壱岐の草花や樹木と共に彩られたテーブルを回遊しながら、みんなが食べる様は祝祭のようでいて、家族の食卓にも見えてくる。
みんな、この島が大好きで、それだけ家族みたいになれたように思えました。
壱岐に訪れることができたから、たくさんの自然と人との出会いがあったから つくることができた料理たち。
いま改めて思い返してみても、そのときの味わいが、みんなの喜ぶ顔が、あのとき胸のあたたかさが思い起こされます。
今度は誰と来ようかな。今度は何をつくろうかな。今度はどんな季節がいいかな。また、いきたいな。もっともっと知りたいな。
たくさんたくさん、ありがとう。心からのごちそうさま。
みんなでいっしょにごちそうさま。
本日のメニュー
ー壱岐で産まれる縄文からのマリアージューたくさんの魚のアラ
島のお豆腐
あおさのりによる壱岐の海のヴィシソワーズ
サザエと島野菜
海藻と海水のジュレ
すこしの柑橘と壱岐の魚介のヴァリエーション
ほのかな柚子と三種のソース(壱岐の海藻とヤリイカのソース、夏の緑と柚子胡椒のソース、そのままのトマトのソース)と壱岐の海や山の恵みと一緒に
壱岐焼酎の温泉で酔わせた壱州牛の炙り焼き
生雲丹と卵黄のソース
きょうの魚介、野菜、牛肉、ソースすべて使ったのちらし寿司
- Trip Cook
ソウダルア / Lua Soda
出張料理人/イートディレクター
大阪生まれ。5歳の頃からの趣味である料理と寄り道がそのまま仕事に。
“美味しいに国境なし”を掲げ日本中でそこにある食材のみを扱い、これからの伝統食を主題に海抜と緯度を合わせることで古今東西が交差する料理をつくる。
現在は和紙を大きな皿に見立てたフードパフォーマンスを携え、新たな食事のあり方を提案中。
フードパフォーマンス映像
https://vimeo.com/275505848