おいしい裏話
「けもの石鹸」( RiCE No.12 )に寄せて
知人の石鹸の話を聞いたとき、最初は「それはかわいそうだ、いのししや鹿を殺すなんて」と思った。 でも、彼が元自衛隊のレンジャー部隊出身で狩猟や解体の免許があることや、いつか自然の力がうまく彼らのバランスをとり淘汰されて、もう人の畑を荒らさなくなるようになったらもう殺したくないという話を聞いて、そうか道の途中でこの方法を取っているのかとすごく納得した。 なんといっても品質が最高なので、動物たちも成仏すると思う。 それにしてもいのししの肉はパワフルで、しばらくのあいだ自分の毛穴からけものの匂いがしてきて、犬にすごくモテた。 少し硬いかな、淡白かな、と思ってよく噛んでいると、最後に突然、奥からじわっとアミノ酸のようなうまみの味が出てくるのである。 あんな感じの肉をもし月に1回200グラムくらい食べたら、多分他の日はヴェジタリアンで過ごせるだろうと思う。そういうバランスが人体の正しいバランスな気がする。 この裏話に出てくるお店: けもの石鹸 http://gor586374.owndshop.com
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年8月『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。近著に『下町サイキック』がある。