一期一食

003. リンゴがつないだ、京都で起きた奇跡の宴


Orito HamadaOrito Hamada  / Dec 17, 2019

京都の岡崎の静かなエリアに佇んでいるタルトタタンがとても美味しい喫茶店があります。[ラ・ヴァチュール]といって、この店を開いた松永ユリさんが、昔フランスで食べたタルトタタンの味を独自に再現し、現在は孫娘の若林麻耶さんが受け継ぎ何十年もずっとその味を守り続けています。タルトタタンは、砂糖とバターだけでたっぷりのリンゴを4時間以上かけてじっくり煮詰めたものにタルト生地で蓋をして焼いたお菓子のこと。ツヤツヤに輝く飴色のリンゴと美味しさを全て吸い込んだタルトのバランスが絶妙です。一口タタンを口に運ぶと、リンゴの香りが顔中を包むように広がり、幸せな気持ちになります。優しい甘さと酸味のバランスもたまりません。ヨーグルトソースをかけて食べたり、一緒に飲む紅茶も一段と味がぐっと上がります。

先日こちらにて、幻のリンゴと言われているカルヴィル・ブランを使ったタルトタタンを食べながら、リンゴについて探求するイベントがあったので出席してきました。フランス古典菓子研究家の三久保美加さんと若林さんと一緒に、まずはリンゴについての詳しいご説明とタルトタタンの歴史などを教えていただいてから、実際に生のカルヴィル・ブランを食べてみたり、タルトタタンに合わせたその日だけの特別な料理を食べながら、飲みながら実際に体験するのですが、その体験がとにかく多幸感にあふれていたのです。まず、シャルキュトリーはラ・ヴァチュールの近所にあるリンデンバームさんが今回のタタンと合わせて作ったオリジナルのもの。

特にブーダンが素晴らしかった。ブーダンとタルトタタンを一緒に食べて、口内でブーダンノワールが完成し、それをシードルで流し込む。フォアグラのテリーヌとタルトタタンのマリアージュも素晴らしく、カルバドスとの相性がたまらなかった。グラタンやシチューやスモークサーモンやテリーヌも絶品揃いでした。

飲み物も、弘前シードル工房kimoriのシードル、もりやま園のリンゴジュースとシードル、カルヴィル・ブランを使ったカルバドスや、天吹酒造のリンゴの花酵母を使った日本酒等、リンゴを使った飲み物がズラッと並び、リンゴに包まれる一夜となりました。

若林さんと三久保さんの出会いやつながりから、奇跡がたくさん起きていました。地元のお店のオリジナルシャルキュトリーは正にラ・ヴァチュールだから実現しているし、弘前大学の藤崎農場に50年以上も前に遺伝資源として植えられていたカルヴィル・ブランの木が1本だけあったそうで、それがきっかけで出来上がったタルトタタン(今回のリンゴもイベントのために弘前大学からご提供してもらったそうです)。また、三久保さんが様々なシェフやパティシエにこのリンゴの素晴らしさを伝え続けたことが実り、カルヴィル・ブランを育てたいと言ったリンゴ農家さんが出来たようです。一つの出逢いを大切にして、丁寧に作り続けることの積み重ねが生んだ奇跡。このような場に居合わせられたこともまた奇跡だし、まさに一期一食な夜だったのです。

ラ・ヴァチュール (La Voiture)

住所:京都府京都市左京区聖護院円頓美町47-5
TEL:075-751-0591
営業時間:11:00~18:00
定休日:月曜日

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