今日の私と台所
私による、私のための料理。
あっという間に4月になりました。いつもなら、多拠点で慌ただしく国内のいろんな場所を行ったり来たりしているはずのこの時期。
さて、今年はというと。世界の風向きが少しおかしな今日この頃、
私のまわりもみなさんと同じようにどんどん環境が変わりつつあります。
実はこの1ヶ月の間、ずっと一拠点に篭り、とある基地作りの作業を進めています。世界の軸が変わりはじめたこの時に、もう一度自分の出来る技術の棚卸をするかのように、薪窯、焚き火など自然を使った新しいキッチン作りと、畑作業、それからそれらを取り巻く日々の料理の記録作業を粛々と進めていました。
▲ スープや煮込み類は、薪ストーブにダッチオーブンをドンと入れるだけ
これは2年ほど前からずっと考えて少しずつ準備してきたことではあるのだけれど、まさかのタイミングで急にドバッと時間ができて、フードフィールド作りの必要性がこんなにも自分の中で重要視されると思っていなかったし、他の仕事にかまけて、まあ、少しずつ作っていけばいいかと作業的にものんびりしていたところもありました。でも今となっては、この取り組みに関する一連の出来事が、近い将来いろんな人にとって暮らしのヒントに繋がってくるのではないかと思うし、この作業の一つ一つを伝えていくことが、これからの大事なライフワークになっていくのではないかと感じつつあるのです。
▲ オレガノは合歓の木の根元に植えた
▲ ぎゅっと締まったこごみの新芽
この活動の先に、「楽しく暮らしを作る人」をもっと増やしたいという気持ちがあって、いつか誰かに伝えられるようにと、食べるために作る。食べるために学ぶ。そういう時間を一つ一つ丁寧に確認しながらすごしています。
大好きな台所にいる時間と向き合ってみると、料理という行為はもちろん食材や道具、食器など、自分自身を喜ばせてあげることのできる要素がたくさんあることに気がつきます。自分の食べたいものは自分を幸せにすることができる。そのことにこのタイミングであらためて気がつくことができたのはラッキーなことで、しかも私はもっとラッキーなことに料理人だった(笑)と言うわけで、もっと自分自身を幸せにするために、今年は今一度、自分の作る日常の料理というものにしっかり向き合おうと思いました。
▲ 鯵の酢締めの下処理と、干し薇の戻し作業
誰のためでもない、自分の「今食べたい」を叶えていく。これがなかなか難しい。何故ならもともと料理は、誰かを喜ばせるためのものだと思っていたから。意識しないと自分の意思がなかなか見えてこないのです。でも、自分に優しい幸せな人は、きっといつか、周りも幸せにできるはずだから、自分の頭の中にある、自分が食べたいものを作って幸せを感じる過程を、記録として残しておくことにしました。
▲ 冷蔵庫の残り物を刻むだけだけど、パスタ以外は全部地場産食材。
▲ アンチョビは昨年秋に釣って漬けておいた自家製のもの。
作っているものはなんてことないもの。とはいえ、それが難しい。今あるもので、今食べたい気分で、頭の中に浮かんできた自分が思う通りのものを表現するとしたら、実際に必要なスキルは半端ない数。知識、技術、知恵、応用力、勘。それから、自分自身の味覚と意思。
本に書いてあっても、教室に通っても、有名店で修行しても、そのまま自分の食べたいものを作れる手段である可能性は限りなく低い。もしも自分で作れなければ、誰かに作ってもらっていたものはいつか突然、その人がいなくなれば食べられなくなるかもしれないのだし、その料理を作るのに必要な食材がこの世から消えるかもわからない。
それから、食材でも料理でも、自分ではなかなか作れないものがあることを知れば知るほど、美味しい料理を作ってくれる人やお店には、もっともっと敬意を持って感謝出来るはず。
選ぶ私たちでい続けるために、まずは作る私たちを取り戻す。誰のためでもない、今の自分の「今食べたい」をまずは皆さんももう少し深く考えてみませんか。
▲ 白米を炊いて食べる時が結局一番気合が入る。この日のメインは採りたて擦りたての自然薯とろろ。
さあ、今日は何食べる?
冷蔵庫や畑を思い出しながら、頭の中で自分会議。
自分の気持ちに正直に、本日も私による、私のための料理を考えます。
きっと美味しいから、出来たら一緒に食べてあげてもよくってよ。
- Planning Director
山倉 あゆみ / Ayumi Yamakura
Sync board Inc.代表取締役/プランニングディレクター
ローカルプロジェクトを中心に活動するSync board Inc.代表取締役。個人/地域/企業/行政/団体と様々な人々と協働しながら、料理人経験を生かした食農プランナーとしてケータリング、キッチンカー、古民家レストラン、公共施設の飲食店など、地域創生伴走型のコンサルティング事業を展開する。現在は、新潟、渋谷、淡路、京都など多拠点を行き来しながら食空間を楽しむ仕組みを各地で立ち上げ続けている。
三条スパイス研究所
http://spicelabo.net
岩室温泉灯りの食邸 KOKAJIYA
http://kokajiya.com
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