エディターズノート
「RiCE」第16号「お弁当」特集に寄せて
RiCEの16号は、お弁当の特集です。なんといっても誌名がRiCEですからね。創刊当初からいつかやろうと温め続けていた企画なので、やっと実現できて嬉しい限り。『461個のおべんとう』という映画の公開があってこのタイミングに合わせられたのも、何かしらの縁を感じてしまいます。人に誘われたまたま観させてもらった試写会で映画の出来にとても感心し、お弁当の特集をやるなら今だ!と直感した次第でした。
原作は TOKYO No. 1 SOUL SET のメンバーとして知られる渡辺俊美さんの著書「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」タイトル通り、息子さんの高校三年間に休みなく毎朝お弁当を作って渡すという約束をやり遂げた実話が綴られています。しかもミュージシャンとしての活動は一貫して疎かにせず、また言い訳にもせず。その事実だけで尊敬の念が最大限に湧いてきますが、もちろん三年間の裏側にはいろんな出来事や葛藤があるわけで……。
主演の井ノ原さんと道枝くんがそれぞれ話してくださっているように、ありふれた毎日の積み重ねが丁寧に淡々と描かれています。そしてそうした日常を描くシーンの数々が、とても貴重な日々であることを実感させられます。映画の撮影は昨年のことで、まだ新型コロナのことなど想像すらされていない。特にライブハウスで盛り上がるシーンには、観るだけで高揚感とせつなさで胸が締め付けられる思いでした。
この作品で描かれるように、お弁当といえば学校時代の体験をはじめとして誰もが思い出を持っていると思います。ただ日本のようなお弁当文化は世界的には珍しいようで、ここまで発展している国はまずないでしょう。幕の内弁当にご当地弁当、駅弁、キャラ弁、アート弁……。日本人は弁当が大好きですし、あまりに多種多様。狭い国土に四季と自然に恵まれた日本という島国自体が、お弁当箱の ようなものだからかもしれません。
表紙&巻頭でフィーチャーした映画『461個のおべんとう』、いよいよ明日11月6日から公開です
さて日本人にとって日常の象徴とも言えるお弁当ですが、コロナ禍のニューノーマルにあっては意味合いがす っかり変わりました。レストランなどの外食産業が大きな打撃を受ける中、デリバリーやテイクアウトに軸足が移ることでお弁当の需要がさらに高まっているようです。ステイホームの時間が増える中で、自宅で食べることを想定したお弁当にも様々なニーズが生まれはじめています。世界的にも同様な状況を迎える中、海外にも “BENTO” が受け入れられはじめたのも同じ流れでしょう。
特定の誰か、あるいは不特定の誰かに向けて、今日もいろいろなお弁当が作られています。特集の取材を通して「お弁当は手紙のようなもの」といった言葉を作り手の方から何度か耳にしました。ただふと思うのは、限られたページ数にいろんな素材や思いを詰め込んだこの雑誌というものも、手紙のようでもあり、またお弁当のようでもあるなと。ぜひ美味しいお弁当を賞味するように楽しくページ をめくってもらえたらとても幸せです。
『461個のおべんとう』
出演:井ノ原快彦、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、森七菜、若林時英、KREVA、やついいちろう他
監督:兼重淳 原作:渡辺俊美(TOKYO No.1 SOUL SET)「461個のお弁当は、親父と息子の男の約束。」(マガジンハウス刊)
11月6日(金)全国ロードショー
配給:東映
©️2020「461個のおべんとう」製作委員会
- RiCE.press Editor in Chief
稲田 浩 / Hiroshi Inada
「RiCE」「RiCE.press」編集長。ライスプレス代表。
ロッキング・オンでの勤続10年を経て、2004年ファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー誌「RiCE」を創刊。2018年1月よりウェブメディア「RiCE.press」をロンチ。
- TAGS