食の学び舎「foodskole」授業体験レポート vol.1
まずは循環のはなし。世界のこと。
まずはじめに。
こんにちは。食の学び舎「foodskole(フードスコーレ)」で校長をしています平井巧です。
foodskoleでは、2021年4月から「21年度前期Basicカリキュラム」がスタート。社会人から大学生、年齢も立場もバラバラな方たちが、9月までの半年間、全12回の授業を通して一緒に食について学び合います。
食を文化として学び、食にまつわるモノ・概念を持論で創造し、生きる力を持つ。これを「食の創造論」として、foodskoleのテーマに置いています。
foodskoleの授業の中で、ゲスト講師に教えてもらったこと、受講生のみんなで話し合われたこと、気づかされた視点は毎回たくさんあります。これをレポートとして形に残すことは、後々の振り返りとしてきっと役立つはず。
何よりfoodskoleの中にいる自分たちだけでなく、食のことが好きなたくさんの人たちに、このことをおしみなく共有したい。そんなことを思いましたので、いま受講している方に、授業の「体験レポート」を書いてもらうことにしました。
foodskoleで学ぶ自分たちがそうであるように、これを読まれた方たちにも、「食」の向き合い方に良い変容が起きることを期待して。これからこの授業体験レポートをお届けしていきたいと思います。
foodskole 公式サイトは、こちらをご覧ください。
記念すべき第1回目の授業は、「まずは循環のはなし 世界のこと」と題して、スウェーデン出身で環境コンサルタントのPeo Ekbergさんと、株式会社ワンプラネットカフェ代表の聡子 Ekbergさんをゲスト講師にお招きしました。
聡子 Ekberg さん
株式会社ワンプラネット・カフェ代表取締役社長。サステナビリティ関連のコンサルティング、講演、ワークショップを企業、団体向けに行う。ペオ・エクベリとともに、ザンビア(アフリカ)、インド、欧州でのバナナペーパー事業を推進。具体的なアクションづくりに注力する。
Peo Ekberg さん
株式会社ワンプラネット・カフェ取締役/サステナビリティ・プロデューサー。スウェーデン出身。サステナビリティ、持続可能な開発目標(SDGs)の取り組みで世界トップのスウェーデン出身。日本全国での講演、ワークショップや、スウェーデン視察ツアーを実施し、企業や団体の具体的なサステナビリティ推進を支援している。
今回の体験レポート担当は、foodskole生の樋口彩加さんです。
(foodskole校長/平井巧)
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私たちが大好きな「食」は、世界とどう関わっているのか。
紐解いてわかったことは、「正しい」を行うための「楽しさ」の重要性でした。
はじめまして。受講生の樋口彩加です。私は現在大学4年生で、自然と社会の関係について学んでいます。
「食」の見方は人や社会によって様々で、だからこそ、おいしい以上に楽しいことだと思います。一方で、複雑な社会の課題があることも事実です。
多様な見方がある中で、自分が納得して選択できる「食」とは何か?自分なりの「食」とのかかわり方を模索したいと思い、今回のカリキュラムを受講することにしました。授業の中で起こる化学反応を楽しみながら、「体験レポート」でたくさんの方々と一緒に学んでいきたいと思います。
今回は、気さくで素敵なお二人と、世界の視点から「食」と「社会」を考えます。私たちが大好きな「食」は、”世界”とどのような関わりがあるのかを紐解く授業でした。
私たちが目指す社会とは?
人と地球にやさしい、認証マーク、サスティナブルといった言葉が日常でよく聞かれるようになりました。しかし、正直に言うと、私は何が基準で、何のために取り組んでいるのか正確にはよくわかっていないものも多くあります。
私たちが目指しているのはいったいどのような社会なのでしょうか?
世界で重要になっている指標が、持続可能な開発目標、通称SDGs(Sustainable Development Goals)です。
United Nations Information Center
2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットから作られています。
例えば、「つくる責任つかう責任」という目標12のターゲットの中には、“2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、 収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる”などの具体的な解決方法が書かれています。
聡子さん曰く、17の目標は大人の約束、169のターゲットは約束のための羅針盤です。
17の目標は大きすぎてなかなか行動に移すことは難しいですが、169のターゲットだと自分事として具体的に考えることができました。The New Division社とワンプラネット・カフェで共同企画された、楽しく分かりやすくターゲットを学べるツール「ターゲット・ファインダー®」も活用すると、さらに学びが深まりそうです!
さらにこれらの目標は、経済、社会、環境の分野に分かれています。その関係性を表したものが以下のウェディングケーキモデルです。
credit: Azote Images for Stockholm Resilience Centre, Stockholm Universit
図中一番下の環境の分野は、私たちが直面する課題の基盤となっていることがわかります。そして、環境の中に含まれる動植物は、私たちの生活に欠かせない「食」へ直接つながるテーマでもあります。
環境循環とは? 還すことができる以上に、とらないルール。
環境分野では具体的にどのような取組が必要とされるのでしょうか?そこで重要となってくるのが「環境に正しい」行動です。
自然の原理原則には、資源が自然再生する仕組み(Recover)と、自然に還る(Return)仕組みの、「バイオサイクル」があります。
しかし、現在の社会ではRecoverとReturnが十分に考えられていないため、資源をとって捨てる一方通行の状態になっているのです。
この状態を自然サイクルの中に戻すために、「テクニカルサイクル」という考え方もあります。自然再生が追いつかないほどとりすぎない(Reduce)、何度も使う(Reuse)、再び使えるようにする(Recycle)仕組みです。
自然がつくったサイクルに、人間のつくったReduce、Reuse、Recycleのサイクルが組み合わさることを「環境循環」と言います。
科学的に示されたこの環境循環に従うことで、地球に優しい行動ではなく「環境に正しい」行動ができるのです。
正しい知識を身につけたあとは有言実行。Peoさんと聡子さんは、地下ではなく地上にあるものを使うというルールの基に、身の回りのものを選択しています。
➀課題の構造を捉え「新たなルール」をつくる
➁数字で結果を「見える化する」
このプロセスが地球規模の課題を、身近に解決できる一つの要素です。
Peoさんが言うには、「サスティナビリティは測ることから始めよう。測らなければ体重計のないダイエットと一緒!」
サスティナビリティでは、測るという視点を忘れてしまっているかも知れないと受講生の多くがこの言葉に共感しました。(※Peoさんの家庭から出る1か月のごみの量は、サッカーボールと同じ大きさだそう)
「正しい」を行うための「楽しさ」の重要性。
環境に「正しい」行動について伺いましたが、謙虚な姿勢を重んじる日本人の性格なのでしょうか?「正しい」行動という言葉に厳しさや近寄りづらさを感じます。社会の課題に取り組むことは、自分を律すること?と少し身構えてしまいます。
そこで重要なのが、「正しさ」と「楽しさ」の両立です。受講生の中には、「正しさ×楽しさ」と表現される方もいました!
ハンバーガーを例に考えてみましょう。ハンバーガーのパティとして欠かせない牛肉ですが、食肉産業のCO2排出量は車が排出するCO2よりも多いといわれています。
この事実を私ははじめて知りました。他の受講生も知っている人は少なかったようです。「ただ、そうしたお肉がいけないのではなく、問題なのはこうした事実を知る機会が日本では極めて少ないこと」との声もあり、日常で知識を得る機会の乏しさを感じました。
環境負荷が大きい事実はありますが「美味しいハンバーガーを食べたい!」、そんな思いからハンバーガーチェーン店「MAX」では、ヴィーガンの人でも食べられるハンバーガーがつくられました。さらに企業から出たCO2の分だけ、植林される仕組みもつくっています。
「正しさ」と「楽しさ」を両立するという理想を達成するために、妥協しない!我慢しない!何でもやってみる!というスウェーデン人の精神が大事な要素になっているようです。
さらにスウェーデンでは、牛乳パックなどの賞味期限表示の下に「これを過ぎてもだいたい大丈夫」と表記されています。
また、廃棄されるフルーツを生かしたジュースの販売では、扱うフルーツが変わるため「毎回味が違う」と自ら宣伝。味が違うことでの味わえる楽しさがあると伝えています。この工夫を聞いた受講生の中からは、「ジュースに味以外の別の価値観を与えている気がする」との意見もありました。
「楽しさ」の考え方は、スウェーデン教育が培ってきたのものです。大人が試行錯誤しながらも「楽しく」取り組む姿を見て、子どもたちが育つ。子どもたちが未来に希望を持ちながら成長することが、持続的な社会への鍵になるかもしれません。
あなたが考えるサスティナビリティ(持続可能性)とは?
私たちにとって身近な「食」は、SDGsと環境循環の面で“世界”と繋がっていました。
受講生からは、「この講義を聞くまで、私にとってSDGsはジブンゴトではなかった。2030年までに世界を変えるための17の目標であることは知ってはいたが、なんとなく遠くて大きすぎる課題に感じていて、身近に感じられていなかった。そんな私がこの講義をきっかけにサステナビリティを日常に取り込みたいと思った。それは、今回の講義で、初めてSDGsを『食』という観点から見たからだった」との感想がありました。
私も講義を受けて、目の前のローカルな視点だけでなく、グローバルな基準で考える必要性とその考え方を知ることができたと思います。
普段は何気なく使っているプラスチック容器や使い捨ての日用品、家で消費しているエネルギーや食べている物は、どこから来て、どこに行くのか、より一層興味を持ちました。
「食」はローカルにもグローバルにも、全ての人が関わるからこそ、SDGsの視点を取り入れやすくなるのだと思います。
また、知識を得ると食のサスティナビリティを具体的に行動する選択肢の少なさにも気づかされます。受講生からは、「日本はヴィーガン、ベジタリアンの選択肢が全然ない。スウェーデンではコンビニでも選べる環境が羨ましい」と海外と日本の消費環境の違いに注目した声もありました。
受講された社会人の方からは、「現場でもSDGsを言い始めたが、実際に理解が進んでいるか疑問。会社自体は今までも取り組んでいるため、個人的な理解を深めることも必要」というお話も。
私は個人的な意見や考え方でサスティナブルな行動をするイメージしか持っておらず、組織全体でSDGsを推進する際にどういった工夫が必要なのか。の視点はありませんでした。組織と個人の関わりの中で、サスティナブルの理解をどう進めるのかが今後の社会で必要だと思います。
普段あまり関わりがないように思える「循環のはなし、世界のこと」。様々な立場の人と話し合うことで、自分にはない新鮮なSDGsの視点を得ることができました。正しく「食」を楽しむことをキーワードに、今後の受講でさらに「食」の学びを深めていきたいと思います!
樋口彩加(ひぐちさやか)
2000年生まれ。法政大学人間環境学部人間環境学科在学中。環境社会学、環境人類学などを選考。小学生の時に「どうして食べられる人と食べられない人がいるのか」を疑問に思ったことがきっかけで、国際関係や環境問題について考えはじめる。国際・国内ボランティアを経験する中で「食の背景」について興味を持つ。身近にできるアクションとしてフードロス削減に関するイベント開催や情報発信などの活動を開始。自然と文化、生きがいなどの社会的な面から環境問題へ取組み、持続可能な社会の実現について勉強中。
- Food Producer
平井 巧 / Satoshi Hirai
foodskole校長/株式会社honshoku代表/一般社団法人フードサルベージ代表理事 1979年東京都生まれ。新潟大学理学部卒業。広告代理店での企画営業を経て独立。「サルベージ・パーティ®︎」を中心に企業・行政のfoodloss&waste にまつわる課題解決を手がける一般社団法人フードサルベージを設立。食のクリエイティブチーム株式会社honshokuでは、「食卓に愉快な風を。」をキーワードに、食にまつわるコンテンツ運営、クリエイティブ制作、プロデュース等を行う。2020年より食の学び舎「foodskole(フードスコーレ)」を開校。 https://www.honshoku.com/
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