食の学び舎「foodskole」授業体験レポート vol.3
市場、ポケマルとスーパーのちがい。
まずはじめに。
こんにちは。食の学び舎「foodskole(フードスコーレ)」で校長をしています平井巧です。
foodskoleでは、2021年4月から「21年度前期Basicカリキュラム」がスタート。社会人から大学生、年齢も立場もバラバラな方たちが、9月までの半年間、全12回の授業を通して一緒に食について学び合います。
食を文化として学び、食にまつわるモノ・概念を持論で創造し、生きる力を持つ。これを「食の創造論」として、foodskoleのテーマに置いています。
foodskoleの授業の中で、ゲスト講師に教えてもらったこと、受講生のみんなで話し合われたこと、気づかされた視点は毎回たくさんあります。これをレポートとして形に残すことは、後々の振り返りとしてきっと役立つはず。
何よりfoodskoleの中にいる自分たちだけでなく、食のことが好きなたくさんの人たちに、このことをおしみなく共有したい。そんなことを思いましたので、いま受講している方に、授業の「体験レポート」を書いてもらっています。
過去レポートはこちらから
1回目: まずは循環のはなし。世界のこと。
2回目: 発酵でつなぐ都市と地域。
foodskoleで学ぶ自分たちがそうであるように、これを読まれた方たちにも、「食」の向き合い方に良い変容が起きることを期待して。これからこの授業体験レポートをお届けしていきたいと思います。
foodskole 公式サイトは、こちらをご覧ください。
第3回目の授業は、「市場、ポケマルとスーパーのちがい。」をテーマに、株式会社ポケットマルシェ代表(https://poke-m.com/)の高橋博之さんをゲスト講師にお招きしました。
1974年、岩手県花巻市出身。2006年から岩手県議会議員を2期務め、 2011年に岩手県知事選に出馬するも次点で落選。2013年に、NPO法人東北開墾を立ち上げ、「東北食べる通信」編集長に就任。2014年には、一般社団法人「日本食べる通信リーグ」 を創設し、代表理事に就任して同モデルを全国展開。2015年12月に、株式会社ポケットマルシェを設立。翌年、全国の生産者と消費者を直接繋げるCtoCプラットフォーム「ポケットマルシェ」のサービスを開始する。
今回の体験レポート担当は、foodskole生の狩野美月さんです。(foodskole校長/平井巧)
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買い物をするとき、食事をするとき。
私たちの食生活を支えているのは「自然」であり「生産者」である。
はじめまして。受講生の狩野美月と申します。
私は現在大学4年生で栄養学や調理学、食文化など食について幅広く学んでいます。
「食」は私たちの生活に欠かせない存在だからこそ、もっと大切にしたいと私は考えています。しかし日本に限らず世界でも食品ロスが大量に発生しているのが現状です。
食品ロスに限らず様々な課題に向き合い、今後自分がどう行動して生活をしていくべきか、その方法を見つけるためにフードスコーレで学びを深めたいと考えました。
第3回目の今回は「市場、ポケマルとスーパーのちがい。」
全国の農家さんや漁師さんから直接食材を購入することができ、直接話すこともできるオンラインの産直市場を展開しているポケットマルシェ(以下「ポケマル」)を立ち上げた高橋博之さんを講師にお招きし、学び合いました。
スーパーマーケットとポケマルの違い
突然ですが、みなさんは普段どこで食べ物を購入していますか?
様々な方法があるかと思いますが、それでは一般的なスーパーマーケットとポケマルのようなネット直販では、流通の過程においてどのような違いがあるのでしょうか。
私自身、スーパーマーケットとネット直販の違いがはっきりと分からなかったため、まずは授業を受ける前にサイトで調べてみました。
スーパーマーケットに並んでいる生鮮食品は、流通過程でたくさんの方が関わりながら消費者の元に届くということが書かれていました。
(参考)流通の仕組み 農林水産省
一方でポケマルのようなネット直販は、スーパーマーケットの流通システムをたどるのではなく、生産者が直接、消費者に配送をする流れとなっているようです。
スーパーマーケットで買う生鮮食品は、私たちが手にするまでにこれだけの人が関わっていたことに驚きました。同時に、流通の段階で関わる人が多いからこそ費用もかかる。結果として農家の収入は低くなってしまうのかなと感じました。
スーパーマーケットとポケマルの大きな違いとしては、生産者が見えるか見えないかだと思います。
講師の高橋さんは「スーパーで買い物をする際、私たち消費者は値段や品質など様々な情報を得て購入するが、自然や生産者の情報を得ることはほとんどない。消費者はプロセスを知る機会がなく、値段だけで判断してしまっている。値段といってもその値段を決めているのは生産者ではないから、低収入である農家を継がせたくないという人が増えている」と仰りました。
この話を聞いて、「生産者がその作物にかけた想い」など、プロセスや価値を判断できる消費者が増えていくことが大切だと思いました。
ポケマルは生産者と消費者を繋ぐ場だからこそ、消費者は生産者のストーリーやプロセスを知ることができ、生産者に対して直接感謝を伝えることができる。このシステムが農家さんのやりがいとなり、消費者はさらに生産者に近づこうとする。生産者と消費者の関係性が強いものになることで、日本の農業が衰退する改善策に繋がっていくのだと感じました。
ポケマルが食育になる
日本では近年、農家の減少や食品ロス問題、孤食問題など様々な問題が取り上げられています。それは食に対する価値観の違いなどに起因し、現代社会が抱えるひとつの課題といえるでしょう。
そんな中、新型コロナウイルスが日本で拡大し自宅にいる時間が増えるとポケマルの需要は高まったのだとか。
ポケマルではコロナ禍に味噌づくりキットや納豆づくりセットを生産者が出品、購入して親子でやってみたり、魚を一匹購入して漁師がZoomでさばき方を教えたりするなどのプログラムが好評だったそう。忙しい現代で、これまで削られてきた食事の時間が、ホームステイをきっかけに食に向き合う人が多くなったこととも相関関係がありそうです。
今回を機に、高橋さんも大切にされている食べ物をつくっている生産者のストーリーやプロセスを知るきっかけとなり、さらには消費者の食育、食に対する価値観を変えていくのではないかと思いました。
都市と地方をかき混ぜること
講義の中で、高橋さんは「今、世界で対立が起きているのはAかBかの二項対立があるからである。その中でも日本人は昔からAとBの間(あいだ)を大切にしてきた。だが今は都市と地方の分断が起きている状況にある。」そして、「これからの時代はもやもやすること、間(あいだ)も大切。お互いに理解し合えるように都市と地方をかき混ぜる人がこれから必要になっていく」とお話しされていて、その言葉がすごく印象的でした。
間(あいだ)を大切にしてきた日本人は外国人からすると曖昧なNOと言えない日本人と言われるのかもしれないですが、今は地域間での分断が起きているのを知り、地方の過疎化が進んでいるのもこの分断が原因の一つなどではないかと思います。
AとBがお互いに直接理解し合うのではなく、どちらの良さも知っている人が間にいることで、徐々に理解し合える関係性が生まれていく。
このかき混ぜる人が増えることで過疎化の問題も農家の数が減少している問題も地方で抱えている問題が良い方向に風向きが変わっていくのだと思いました。
ひとりの消費者としての行動
コロナ禍を機に地方へと移住し、自分で野菜を作る人や家庭菜園に取り組んでいる人が増えています。
「消費で得られる喜びのためにはお金が必要だが、生産で得られる喜びは時間が必要。古来の生き物は自分で食べ物を獲りに行き、空腹を満たし、そこに喜びを感じていた。なのに人間だけがそのレールから外れすぎてしまった」という話がありました。コロナ禍の社会の変化と共に、人間の本能みたいなものが本来のレールへと回帰している印象を受けます。
普段から不便なく食べたいときに好きなものを食べられて、お腹を満たすことができています。ですが、その裏側には食べ物の生みの親である自然と育ての親である生産者の存在があるからこそです。私たちが幸せを感じる瞬間の裏にある、自然と消費者の存在を忘れてはならない、感謝しなければいけないと講義を通して改めて実感しました。
講義後、受講生と議論を交わす中で、「生産者にはなれないけれど、もっと生産者に近い選択肢、自然に近い選択肢を増やそうと思う機会になった」という声。小学校の講師をされている受講生からは「結果重視じゃなくて家庭重視っていうところが教育業界の求められていて重なるものがあった」という感想もあり、それぞれ感じるものがありました。
私は講義が終わった後、早速ポケマルを利用しました!
(実は講義を受ける前からポケマルを利用していたのですが、生産者の想いを知ろうと思って利用していたのではなく、美味しさや鮮度を求めて利用をしていました。ですが、講義を受けた後は無意識に「生産者を知りたい!」という気持ちにシフトし、新たな気持ちでポケマルを利用しました)
実際に生産者の方とメッセージのやりとりをしたり、他の利用者も見えるレビュー欄で自分の調理法を投稿してみたり、家の食卓でも注文した商品がどこでどう作られたのか話題をあげてみたことで食事の時間がすごく楽しくなりました。この楽しさも食べ物を生産している農家さんがいたから生まれた感情であって、感謝を忘れてはいけないと実感しました。
買い物をするとき、食事をするとき…いろんな場面で私たちの食生活を支えているのは「自然であり、生産者であること」です。以上のようなことを少し想うだけでも、食に対する価値観は変わっていくと思います。
私自身も、もっと自然を身近に感じ、生産者を想う行動をしていきたいと思います。
- Food Producer
平井 巧 / Satoshi Hirai
foodskole校長/株式会社honshoku代表/一般社団法人フードサルベージ代表理事 1979年東京都生まれ。新潟大学理学部卒業。広告代理店での企画営業を経て独立。「サルベージ・パーティ®︎」を中心に企業・行政のfoodloss&waste にまつわる課題解決を手がける一般社団法人フードサルベージを設立。食のクリエイティブチーム株式会社honshokuでは、「食卓に愉快な風を。」をキーワードに、食にまつわるコンテンツ運営、クリエイティブ制作、プロデュース等を行う。2020年より食の学び舎「foodskole(フードスコーレ)」を開校。 https://www.honshoku.com/
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