レポート:[Restaurant Maruta]プレオープン
薪ストーブで大皿料理をいただくスペシャルディナーの夕べ
[Salmon & Trout]や[The OPEN BOOK]、[鯖の塩焼き専門店 鯖なのに。]などを次々手がけてきた料理人・森枝幹。RiCEの編集委員でもある彼プロデュースによる新しいレストランが、調布市深大寺北町にオープンした。3月21日にプレオープンの食事会に招かれて伺ったが、春分の日でありながらあいにくの雪。神代植物公園を過ぎて深大寺北町のバス停の目の前の大きな平屋がその店[Restaurant Maruta]だった。
一足踏み入れると、そこには大きな壺に小さな木ほどの満開の桜が生けられ、フラワーアレンジメントと見紛うカラフルなオードブルの大皿が並んでいた。店内だけは春だった。
エアコンではない優しい暖かさを感じたと思えば、大きな薪ストーブがあり、焚き火が燃えていた。[Maruta]は大皿料理を大勢でシェアするコンセプト。一人で出かけたとしても大テーブルに案内され、偶然同じテーブルになった誰かと会話や食事を楽しんでほしいというコンセプトだ。ワインなどもペアリングではなく、同席になった人と相談してボトルを分け合う。しかしこの日のワインのセレクションは[Gris]ソムリエの外山博之。大船に乗った気持ちでお任せできる。
イタリアはベネト州のスパークリングのビオでスタート。小鉢に入ったカリフラワー、かぶ、プチトマト、コルニション、オリーブ、マッシュルームのピクルスがサーブされたあと、3種の甘くないサブレが出された。チーズ、黒オリーブ、バナナのフレーバーでクリームフレッシュにミントを加えたソースと鴨のパテといただく。サブレも美味しかったが、スパイスでかすかに香りづけしたパテが絶品で、赤ワインが欲しくなった。
スパークリングを飲んでしまい、同席の方々とワインの相談をする。オレンジワインと赤とで迷った挙句、両方飲めるでしょうということに。4人でシェアの強みだ。オレンジワインは白ぶどうが原料だが赤ワインと同じように皮を残して醸造したワイン。ここ数年でよく見かけるようになった。この日出されたのはスペインのVinyes Singulars Macabeu 2016。2012年に仕事を始めたカタルーニャの醸造家のワイン。ワイナリーには1405年の歴史があるそうだが、やはり若々しさを感じる味わいだ。
ここで店に入ったときに見かけた美しい大皿のオードブルが供される。自家製リコッタ、トマト、イチゴ、塩レモン。一緒に盛られたバジルは調布産。歯ごたえのあるラスクも入って見た目よりもボリュームがある。
次はニシンの熟酢で和えたマスタードリーフのサラダ。ニシンはまだ姿を残していてフィッシュサラダのような感覚。サニーレタスとからし菜、レモングラスに揚げたパン粉がかかり、黒キャベツのローストが乗せられている。黒キャベツは薪ストーブで調理したものだ。
さらに薪ストーブで調理されたブラックバスが出る。ブラックバスや鹿は森枝が好んで使う美味しい「害獣」。今日出てきたのは4.2キロの大物で、シェフがそれを捌くのに店中の客が集まって動画や写真を撮っていた。新じゃがと自家製発酵バターが添えられる。ブラックバスの味付けはモホソース。カナリア諸島起源のソースで、オリーブオイル、にんにく、柑橘などをブレンドしたものだ。ピリッと辛くて魚によく合う。
そろそろオレンジワインが空いてしまい、ピノ・ノワールとガメイをブレンドしたその名もLe Gaminot 2016をいただく。飲みやすさとガツンとした旨味が両方あるやばいワインだ。かつお菜に、牛生ハムのブレザオラ、酒に漬け込んだ卵黄のサラダが出る。味付けはにんにく入りのクリームソースで、揚げたルッコラをのせてある。
次がパエリャだ。卵を取った後のひね鶏を使った。卵を取っておいて、まだ食べるのか! とめんどりには責められそうだけど美味しい。それに埋葬されるんじゃなく廃棄されてしまうのなら最後まで食べたほうがいい。ここまで散々食べているのだが、オードブルのほとんどがサラダなのと、ワインの酔いとの相乗効果であっさり食べられてしまう。
そしていよいよメインである。豚、牛、鴨から好きなものを2種類選ぶことができたのだが、私たちは食事スタートギリギリにレストランに着いたので、鴨は売り切れ。しかしこの豚と牛が素晴らしかった。
豚は兄弟ごとにケージで育てて豚のストレスをなくした湘南のみやじ豚を固まり肉に黒にんにくと蜂蜜、シェリービネガーで甘めに味をつけてローストした。薪で焼いたじゃがいものピュレと発酵根菜といただく。
牛は八王子のジャージー牛のロースト。不勉強な私は、八王子で酪農が行われていると初めて知った。アニマルウェルフェアを考え、放牧で育てられた磯沼牧場の牛のイチボだという。トレビス、マジョラムが添えられ、玉ねぎとヤーコンのソースでいただく。牛もまた乳牛で経産牛だったそうだ。月齢が経つほど味が強くなるという。あまりによく働いてくれた牛とそんな食材を選んでくれたシェフ。美味しさとありがたさに感動する。どちらの肉も、薪ストーブで焼かれたもの。クヌギと桜の薪を使っているので、良いスモーク臭もつくのだ。
もう十分満足だが、デザートはチーズケーキとラムレーズンのパウンドケーキ。チーズケーキはクリームチーズのプリンのよう。焼いておいたものをストウブの鍋で温めなおし、味が馴染んで甘みが強くなっている。パウンドケーキも程よい甘さでお腹にしっかりとおさまった。どちらも好みの量をサーブしてもらえて、パウンドケーキなどはどんと大きな塊を眼の前に出されて好きな厚さで切ってくれる。
食後はコーヒーかハーブティー。同じテーブルの方が全員コーヒーを選ばれたので、私はハーブティーにしたが、レストランのハーブガーデンのアップルミント、ペパーミント、レモングラス、レモンバームをたっぷり使った爽やかなお茶で、消化を助けてくれるように感じた。
シェフの石松一樹は[Maruta]の前はオーストラリアの[Brae]で働いていた。「東京ドームくらいの広さのキッチンガーデンがあるレストランで、厨房の外にバーベキューキットがあるんです。ここも東京ではそれに近い雰囲気なんで、暖炉もあるし、輸送コストのかからないローカルで新鮮な素材を使っていきたいです」
東京でダイナミックな料理をおなかいっぱい食べたいと感じたら、深大寺まで足を伸ばしてみるのもおすすめだ。できれば大勢で行きたいが、一人で行っても美味しいもの好きな友だちができるかもしれない。
Restaurant Maruta
住所: 東京都調布市深大寺北町1-20-1
電話: 042-444-3511
時間: 17:30〜22:30 [水〜金]、11:30〜22:30 [土・日・祝]
定休: 月、火
- CREDIT
- Text by Kyoko Endo
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