連載対談:茶でも一杯

安藤桃子×丸若裕俊
「茶と映画の次世代革命」前編


Hirotoshi MaruwakaHirotoshi Maruwaka  / Apr 22, 2018

GEN GEN ANの丸若裕俊が毎回ゲストに合わせた茶を淹れて飲みながら対談するコーナー「茶でも一杯」をスタートさせる。第一回のゲストは、映画監督の安藤桃子。自らの作品『0.5ミリ』の撮影で訪れた高知に惚れ込んで移住し、さらに映画館[ウィークエンド キネマ M ]( 2017年10月7日よりオープン) を企画・運営している。映画と茶、分野は違えどお互い友人を超えた同志のような結びつきを感じているらしき二人。渋谷のカフェからGEN GEN ANの店へと場所を移し、茶を飲みながら弾みに弾んだ会話を2回に分けてお届けする。

先に繋いでバトンタッチしていくようなこと。若い子たちが本質を知れる環境ってどうしたら生み出せるのかなとか、そんな大きい話をしてます。とにかく、革命を起こしたい (安藤)

———今回は連載第一回ということで、丸若さんの方からぜひ安藤さんでというリクエストをいただきました。まずそのあたりのこだわりについてお話ください。

丸若:まず、茶を始めたときも今もそうなんですけど、やっぱり地方をうろうろすることが多かったので「土地ってなんなんだろう?」って考える機会が多かったんです。やっぱり「土地の力」ってよく言いますけど、本来茶ってそういうことが色濃く反映されるもので、しかもそれを持ち運びできたり共有できたりする。じゃあその土地っていうものに正面からぶつかってる人たちってどういう方々なんだろう? って考えたときに、いろんな方がいるし職人さんとかもいるんだけど、自分が学んだり共感できるっていうのが最初にないと、なんかぶれちゃうなと思ったんです。そんな時に一緒にこの壮大なテーマに取り組んでくれる最高の茶師 松尾俊一とその仲間たちと出会えたんです。彼らとの取り組みは単純に「地域再生」とか「地域の魅力を再発見」とかっていうんじゃなくて……もちろんそういうことも大事なんですが、さらにその次のステージを目指す必要があると思っていて。そこで安藤さんと知り合ったときはまだ高知にギリギリ移住してなかった。高知にどう魅せられたのか、そこでまた映画館やるって……。

———面白いですよね。

丸若:茶で言うと自分なりな解釈では茶房や喫茶店を作ってるのに近いと思うんですよね。良いコンテンツをめがけて人が集まってくる。地元の人もそうだし、映画を観るって形でコミュニケーション深めようという考え方がすごく興味深いし、共感を覚えます。

———安藤さんは丸若さんに最初出会ったときは茶を通してですか?

安藤:丸若君が何をやってる人かも全然知らず、共通の大切な友人の紹介で知り合ったような感じですね。何かしら一緒に仕事をしてるかって言われたら、していない。そういった意味で、自分の周りにいる中ではシンプルに友達と呼べる、数少ない人です。そのシンプルに友達って言えるところ以上に、「志」という言葉があるんだったら、見ている先が同じというか、同じところにフォーカスを置いているので、やってることは違うけれども、たぶん表現したいところが同じなんじゃないかなと最近思っていますね。
私が高知に移住するにあたって——3・11以降、地方に移住するって、結構「価値観の見直し」だ「食の見直し」だとかいろんなことがあるし、子育てしてたら地方に移住したほうが生きやすいんじゃないかとか、いろんな変化が起きてると思うんですけど、私のきっかけは全然そこではなかったんです。
東京で生まれ育って、大都会の中で丸若君みたいな人と出会って、なんやかんや「文化とはなんぞや?」とか議論している中で、「あ、私が刀を抜きたい場所って東京じゃなかった」って思った。高知で映画を撮ったときに「ああ、この土地だ!」って (直感した) 。高知に移住する人って本質的なことに目覚めて移住する人が多いんですけど、なんかけっこう感覚で「ぼん!」と移住したので。住んでるなかで徐々に「ああ! 私が感じてたのはこのことだったのか!」「こういう歴史があったからなんだ!」「こういう人たちがいたからなのか!」っていう答え合わせをしていくような流れになっています。丸若君も大都会のこの混沌とした中で、わーっと走ってるところで茶っていうもののとんでもなさに覚醒しちゃった (笑) 。
結構バイオリズムが合ってるので、たまに連絡するとそういう感覚的なコミュニケーションから入って、精神的に落ちてるというかすごい地道なところを掘ってるときはお互いに掘っていて、「ぱーん!」と飛ぶときはなんか同じようなところでふわっとやってるという。

丸若:それはある意味もう自然になっちゃって、あんまりそれについても驚かなくなるぐらい近くにいる存在ですね。たまに会うと「そうだ」って答え合わせをするとか。僕は、安藤桃子という人間と知り合って、初めて文化というものを意識するようになった。それまでは「文化人」とか「文化」って気持ち悪い言葉だと(笑)。とりあえず理詰めして潰そうみたいな感じの人種だろうと思っていて。

安藤: (笑)

丸若:でも、違うんだと。クリエイティブなことをしている人たち。文化っていうのは、時代をちゃんと背負ってそこを逃げずに先へと向かってる人たちなんだなって思い直せた。だから、なんかやっぱり気づいてみたら映画とか茶だって文化のどまんなかにいるんですけど。

安藤:そうだよね。この間富山にいた時すごい面白い話を聞いて。誰かが言ったことを富山市長が話してたんだけど「カップラーメンは文明で、茶は文化だ」っていう。カップラーメンは誰が作っても必ず一定の味になるけど、茶は同じ茶葉でも同じお湯でもやっぱり淹れる人で全然味が違う。だから変化するものは文化で、変化しないものは文明なんじゃないかみたいなことを誰かが言っていたって富山市長が話したのを聞いて、それはそうだよなって。
それは何かな? って突き詰めたら、超シンプルに「心」だと。人の「心」というものを軸に置いていることはすべて文化だから、だから常に変化していくんだと思う。だから伝統っていうものがあって、いま丸若くんがやってるような伝統が受け継がれていかないことへのジレンマもありながら、やっぱり新しい人には新しい表現がある。それを先人たちは嫌うっていうその摩擦も含めて文化における変化の面白さなんじゃないかな。
映画もね、このiPhoneで観れるっていうことを真っ向から否定すると自分がこの先進化できないかなと思う。でも本質を知ってたら、スマホ観てもちゃんと感覚で見られるのが人の能力だと。だからデジタルとかスマホを否定するんじゃなくて、ティーバッグのお茶とかを否定するんじゃなくて、本物と本質は伝えていきたい。それを一回でもインプットすると、人ってそこに想像力と感性と感覚できちっとコンセントがつながるようなことができる生き物なんだと思う。そこが我々の能力なので。
それでね、そんなことを丸若君と話していたら、感覚的な部分で一緒に何かやりたいねってことになっていくわけですよ。たとえば映画館で売る茶をいろいろ見立ててほしいとか。そういう楽しさもあるけど、もっともっと先に繋いでバトンタッチしていくようなこと。だから、若い子たちが本質を知れる環境ってどうしたら生み出せるのかなとか、そんなような大きい話とか。とにかく、革命を起こしたい (笑)。

答えは一つじゃなくていい。茶を飲む人によって幼少期を思い出す人もいれば、昨日のことを思い出す人もいるのかもしれないし、もしかしたら明日のことを発想する人もいてくれていい (丸若)

丸若:その革命が21世紀に合った革命である必要があるとは思っていて。100年前とかみたいに誰をギロチンに乗っけるんだとかそういう話ではもちろんないし。ひとりでも多く、みんながいい感じになるにはどうしたらいいのか?っていう。

———いまの時代に合った感じで。

丸若:そういうところにいま来てる気がしていて。ここで誰かを駆逐するって方向へ行ったら前に進まなくなっちゃう。だけど、そうじゃない考え方を共有していきたいよね、みたいな感じで話したりしてますね。
だから茶もそうだし、映画もそうだと思うんですけど、人生観が変わると思っていて。

安藤:丸若君の手掛けている茶を体験したときに、シンプルに感性が開く感じがわかるっていうか「ぽん!」って開くんですよね。茶の種類によって違うんですけど、それがなんなんだろうって思うと、その茶葉の持ってるエネルギーが、たとえばいまいる嬉野 (佐賀県にあるGEN GEN ANの茶畑の場所) の茶、そこの土とかそこの匂いっていうのとも違うってこのあいだわかったんですけど。西洋のハーブティーは鼻で感じて美味しいというか、体験する。直球で鼻にくるんですけど、日本茶、特にこの間飲んだ彼が淹れた茶は、匂いじゃなくて最初に心に、ハートに感覚が出るんですよ。キュンとするとか「切ない! 私これ十代を思い出します!」っていう。なんでだろって聞いたら「まさにこれは乙女みたいなもので、ホントにそういう意味で強さがあって若々しさが激しい茶です」って。

———香りって一番記憶を刺激するって言いますよね。

安藤:その香りが最初に鼻からくるのと、奥から感じるのって全然違う。日本茶は奥から刺激されるので、そこはわからなくても体験したら勝手に開くんだろうと思います。だから (GEN GEN ANのある) 渋谷のどまんなかで若い子たちがお茶を飲むんですよね。一回飲んだら「何なんだろ」って、じわじわと帰り道とか一日の感覚が変わってることに無意識でも感じてるんだろうし。

丸若:映画もそうですよね? 彼女の映画作品 (『0.5ミリ』) を観たときにも同じ感覚というか、「これ、良いとか悪いとかコメントする前のものがあるな」みたいなのがあったんですよ。ちょっと呆然とするというか、衝撃だった。別に知り合いだからっていうんじゃなくて、なんだろう……。茶もそうで、超自然な茶ってないんですよ。絶対に人工的。だって人間が土を管理して、作為的に木を調整して得るわけだから、そういった意味では自然じゃない。茶作りは僕は茶を通して自然と一体化する行為だと思っています。だからそのとき観た彼女の映画は、ドキュメンタリーではないけど、本質にあるものがドキュメンタリーに感じた。超私的というか。上の句と下の句があって、その字の間を自分で繋げ合わせていくと違う世界観が生まれるみたいな、余白がある。茶もそんな感じでいられたらなって。答えは一つじゃなくていい。飲む人によって幼少期を思い出す人もいれば、昨日のことを思い出す人もいるのかもしれないし、もしかしたら明日のことを発想する人もいてくれていい。

いまちょうどいい (文明と文化の) クロスポイントを見つけようと我々はしているんじゃないかな。別に文明を否定することでもないし単純な話じゃないと思うけど、絶対どっかに答えはあるはず (安藤)

安藤:一昨日、浜田和紙 (高知の和紙業者) の濵田洋直君と話していて。楮 (こうぞ。和紙の原料) は和紙に使うものは自生のものは使えなくて、やっぱり人が育てたものでないと油とかアクが強くて使えないんです。でもそれは人が山に入って楮を作っていたから、山も生態系がきちっと整っていたし、人の手が山に入ることでその山は保たれてるっていう共存があった。それが (今は) 崩れてるから、やっぱり和紙を作る環境を取り戻さないといけないと。高知みたいな場所はどんどん山ごと無茶苦茶に荒らされて猪が (山から) 下りてきちゃったりとかいろんなことが起こっていくっていう。
たぶんいま丸若君が言ったようなこともすべて、自然そのままな茶はないけれども、人が手を入れることそれ自体が、人が本来自然そのもので、同じひとつのものだったのに、自然のバイオリズムと合った生活じゃなくなっているからバランスが崩れている。けれども、人が茶とか楮とか自然と関わり合いながらきちっと生態系を一緒に回してきた、自然と一体化してきたことを、いまちょうどいいクロスポイントを見つけようと我々はしているんじゃないかなと。別に文明を否定することでもないんだろうし、単純な話じゃないと思うけど、絶対どっかに答えはあるはずだよねっていう。文明と文化のクロスポイントがあるはずだよねっていうことをなんやかんや感覚的に探している。

丸若:だから僕にとってもトライ&エラーというか、死ぬまでそれを続けるんだと思う。でもその答え合わせで途中経過の報告をしあえる人間って、いるようでいない。主観も入るんだけど、客観でキャッチボールするようにしてるっていうか、そうなってる。なぜなら僕らは昔からの友だちとか幼馴染ではないから、最初にそういうことをなんとなく考えてるときに会ってるから、なんか「同志」って言ったらなんですけど。

———そういう言葉が思い浮かびますけどね。

丸若:茶はそういう面と、漢方って側面もあるから、やっぱり体感的にそれを整えてもらえるように飲んでもらいたいっていうのが自分の中ではあります。彼女とはすごく濃く繋がっているけど、そういうことを意識と無意識で組み合わせる人っていると思いますよ。今後 (この連載で) そういう人たちに茶をきっかけに会って、またそこで繋がって行って、出会いの場にできたらいいなと思って。だから (RiCE.pressの) 「食」って切り口はめちゃくちゃいいなと思っていて。クリエイティブでアートで。

安藤:私、ひとりで話しているとずっとダダダダダダダって話すから、言ってることがわからないと言われるけど、丸若君みたいな冷静な人がいれば「こういうことだよね」って翻訳をちゃんとしてくれる (笑) 。

———噛み砕いてね。

丸若:いや、してないし。僕、昨日「完全に多動性ですね」って言われたばっかりだから (笑) 。

全員: (笑)。

安藤桃子
1982年生まれ。高校時代よりイギリスに留学、ロンドン大学芸術学部を次席で卒業。その後ニューヨークで映画作りを学び、監督助手として働く。2010年4月、監督・脚本を務めたデビュー作『カケラ』が、ロンドンのICA(インスティチュート・オブ・コンテンポラリー・アート)と東京で同時公開され、その他多数の海外映画祭に出品、国内外で高い評価を得る。2011年に幻冬舎から初の書き下ろし長編小説『0.5ミリ』を刊行。現在、文庫版が幻冬舎から発売中。また、同作を自ら監督、脚本した映画『0.5ミリ』が2014年11月公開。第39回報知映画賞作品賞、第69回毎日映画コンクール脚本賞、第36回ヨコハマ映画祭監督賞、第24回日本映画批評家大賞作品賞、など数々の賞を受賞する。

ゼロ・ピクチュアズ公式ホームページ
http://www.zeropictures.co.jp/

「0.5ミリ」公式ホームページ
http://www.05mm.ayapro.ne.jp/

CREDIT
司会: 稲田浩 / 写真: 森本洋輔

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