エディターズノート
「RiCE」第24号「ナチュラルワイン」特集に寄せて
RiCEの通算第24号はナチュラルワインの特集です。RiCEにとって初のワイン特集なわけですが、いつかはやりたいとずっと候補に上がり続けてきました。ではなぜ今まで見送り続けてきたかというと、どこかで高いハードルを感じていたからかもしれません。
ワインといえば、日本を含めグローバルな巨大マーケットが存在し、その中に評論家、ソムリエ、ワイナリー、インポーター、高級レストランなどなど様々な専門領域があり、それぞれにヒエラルキーが存在する(ように見える)。専門誌がいくつもあったりしますし、われわれアウトサイダーの出る幕はないのかなと。そんな威圧感を(勝手に)感じていたところがありました。
しかし近年のナチュラルワイン・ブームは、そうした文脈とはまた違うオルタナティブな動きであるようです。むしろ既存のヒエラルキーやシステムを無効化する反逆性を感じさせるところがある。
そもそもナチュラルワインとは何でしょう? 当初日本では自然派ワインと呼びならわされ、フランス語からヴァンナチュールとも呼ばれてきました。それを英語に訳したナチュラルワインが、なんとなく一般用語として定着してきているようです。その一方、ナチュールという略称が20代を中心とした若い世代で自然と口にされており、彼らにとっては初めて手にするワインがナチュールであるという現象が起きています。いわばナチュール新世代の誕生です。
そもそもワインとは、農産物であるぶどうの果汁を発酵させて造る醸造酒です。安定してぶどうの収量を確保するために農薬が使われたり、品質管理のために酸化防止剤(SO2)などが添加されることが工業化の流れで一般化していました。
一方ナチュラルワインは、そうした流れに逆行して出来るだけ無農薬でぶどうを育て、添加物を極力ゼロに近づけてワインを造ります。当然自然の力に左右されますし、小規模生産にならざるを得ず、人気のワイナリーのものはなかなか入手が困難だったりします。その分、土地ならではの味わいがダイレクトに感じられるし、年ごとに味わいが変化する。
またワインの顔、ボトルに貼られたエチケットが楽しい。本来は造り手や地域、ぶどうの品種や生産年などの情報が記載されていたのに対し、そんなことは二の次とばかりポップなアートやイラストが描かれていたりする。当然作り手がイメージする中身とシンクロしているわけで、直感を信じてジャケ買いするのも正解。
そう、何だか音楽におけるかつてのレコードの楽しみと似ていませんか? 正統派ワインはいわばクラシック音楽であり、対するナチュラルワインはポップミュージックであり、ヒップホップやハードコアパンクなのかもしれません。だからこそナチュール新世代にとって身近でかつ夢中になれる存在として、ナチュラルワインは最新のストリートカルチャーとも言えるのです。彼らを起点に、今のワインライフを探ってみました。
Illustration by Masakatsu Shimoda
- RiCE.press Editor in Chief
稲田 浩 / Hiroshi Inada
「RiCE」「RiCE.press」編集長。ライスプレス代表。
ロッキング・オンでの勤続10年を経て、2004年ファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー誌「RiCE」を創刊。2018年1月よりウェブメディア「RiCE.press」をロンチ。
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