連載対談:茶でも一杯
安藤桃子×丸若裕俊
「茶と映画の次世代革命」後編
幻幻庵の丸若裕俊による連載「お茶でも一杯」、第1回目のゲストである安藤桃子との対話、後半です。宇田川町にある[GEN GEN AN]のお店に場所を移し、丸若手ずから淹れた茶を飲みながら話は始まった。 (前編はこちらからどうぞ)
台湾茶のマニアの人が高知でお茶を飲んで、台湾で1億円で取引されている超オーガニックなお茶と味がそっくりだって (安藤)
丸若:この間、奈良に行ってきたんですよ。で、奈良に素晴らしい茶業家がいて、年は同年代ですけど、完全自然農法で18年間茶業をやってる人がいて。そこに行ったら、日本最古の神社って呼ばれる大神神社ってあるじゃないですか。三重にあるお三輪山ってところの大神神社の奥の院ってところがあるんですけど、大和朝廷だった、そこの奥の院の裏に茶畑があった。なんか行った瞬間に白昼夢状態なんですよ。「やべえとこ入っちゃった」みたいな。で、そこの茶って、もう飲むとこう来て……。
▲ 安藤のために用意した茶を自ら淹れる丸若
安藤:飲めんの! そのお茶。
丸若:そうですよ。で、彼は茶畑を、小区画を複数管理していて。昔の茶畑って今みたいに開拓してからやらないから。 (茶畑に最適な土地を見つけて) 「行けそうだな」ってところでやるから。
安藤:うんうん。
丸若:で、もう一個行ったのは、推古天皇が初めて薬草植えたっていうエリアで、薬草と茶を育てている。
安藤:きょえ〜〜〜! (驚)
丸若:そこもまた、入った瞬間「これやべえぞ。絶対にやべえぞ」って感じのエリアだったんです。だからいわゆる大和って……うちの嬉野って、唐からの通り道でお茶が初めて入ったエリアなんですね。そっからえっちらおっちら行って帝にお茶を献上したわけですよね。仏教と一緒に「すげえもん持って来たぞ」って、たぶん中国の人と一緒に。それが大和なんですよ。そこのふたつを知れたのがすごい面白かった。
———繋がったわけですね。
丸若:で、その一帯は全部大国主なんですよ。
安藤:へえーーー。まあ、そうだよね。
丸若:天照じゃないんですよ。大国主なんで、だからあっち系からなんですよ。その彼が言うには、次にその (茶業の) ノウハウを頼まれてやるっていうのが出雲らしいんですよ。そういう繋がりもめちゃくちゃ面白くって。
安藤:それもうけっこう単純に大和の目が覚めるよね (笑) 大和としての。
丸若:どこだっけ、奈良の……。
安藤:奈良、大峰山 (女人禁制の霊峰) 。
丸若:そう、あのへんだよ。ちょうどふもとのところ。だから僕そういうエリアの……お茶を横で繋げていきたいんです。それで、土地に力があるところっていう、超シンプルなところで、そこで生えたお茶を繋いでいきたい。高知もそうなんですよ。
安藤:高知のお茶は台湾のお茶にすごい似てるって言われる。土着的というか、実際そんな作り方で岩に自生してるのを放ったらかしとかなんです。いまはブランディングをしてるけれども、ほとんどみんな自分たちで飲む用に代々自分の家の前に必ず茶畑を持っていて摘んでは淹れてっていうスタイル。台湾茶のマニアの人が高知でお茶を飲んで、台湾で1億円で取引されている超オーガニックなお茶と味がそっくりだって。
▲ ポットのお湯を急須に入れると香りが広がった
丸若:へえ! すごいね。その味と似てるんだ。
安藤:すごい似てる。たぶん台湾だと山の中で自生してるのとかが売られたりしてるけど、高知はそのままそのままやってるから、味が似てるんじゃないかな。天候も似てるしね。比較的に温暖だけど、寒暖の差が激しかったり。
彼女が映画をセレクトしてそれにお茶を合わせて、映画を観ながらお茶を飲んでくださいっていうのができたらいいねってアイデアを実現させたい (丸若)
丸若:お茶を仏教と一緒に持って来たってことは、その当時、持って来なきゃいけないものの一つだと思ったってことじゃないですか。
———そうですね。プライオリティーは高かったんでしょうね。
丸若:船に入れられるものって限られているわけですから。「これを日本に持って行ったら俺すげえって言われるぞ」って思って持って来たと思うんですよ、簡単に言うと。すごい先進的だったと。それで持ってきた時は、あまりにもすごかったんだけど、現在行き着いたところはペットボトルになってるじゃないですか。
———現在進行形でね。
丸若:で、コアなものは自然と馴らされて、なくなってっちゃったんですよね。で、いまあるけど本来の姿に戻ってきたのはやっぱりそのパワーというか、人の何かを変えるであろう……。でも、なんでもそうだと思うんですよ。最初に映画ってもんが生まれたときのショック、衝撃ってものと、いまのものと変わって来ちゃっている。だから「スマホで見てもいーじゃん」っていう。ペットボトルと近いような気がしていて。
▲ 茶器に敷いた手ぬぐいは宝蔵寺の特製。GEN GEN ANの由来となった売茶翁と若冲の共作の掛け軸が所蔵されており、そのスカルの絵柄からデザインされたもの
———確かに。
安藤:海を渡ってきたことを最近いつも考えるんだけど、インドと日本と。なんとなく私のイメージのなかでは、出発点がインドで、たどり着いたのが日本で、その間に中国を渡ってチベットとかもばーっと通って、仏教が入ってきた。お茶を含めていろんなものが入ってきた。日出ずる国が日本で、日没する国がインドって言われてるけど、でも神々の祭り方は真逆で、お茶とかのあり方も真逆で、インドは完全に陽じゃないですか。お花を散らしてどんちゃんどんちゃんやって、表現の仕方が陽。で、日本は表現として完全に陰な祀り方をする。その対比みたいなものが最近面白いというか、興味が湧く。インドも日本も一緒くたにもなって来てるので、陰陽が合わさって表現されるような時代がもうそろそろ来てるのかなと。
丸若:時間を楽しむ。時間ってものはなんなんだっけっていうことを考えると、宇宙ってなんだっけとおんなじような気がして来て。時間って長短するじゃないですか。
安藤:茶室と映画館、同じだよね。宇宙船の中みたいな感覚で。
———次元が違う感じ?
安藤:茶室の中での時間と、映画館の中での時間と。でも映画館って完全に文明が関わっていて発明されてるじゃないですか。戦争でのマシンガンと同じ。カメラ向けられると命取られそうな。
———「シュート」って言いますからね。
丸若:狙ってるわけですからね。
安藤:フィルム自体、セルロイドって戦争のためにいろいろ開発していくなかで生まれたもので。文明というか最も傲慢な部分から始まって、文化として表現するものの出口になってると思うんだけど。でも茶室と映画館って時間の概念でいうと、現実と関係ないっていうか、一回入るとぶん! と別次元に行くっていう。
▲ それぞれの茶器に注ぐ前。じっと蒸らす時間も重要
丸若:だから彼女とはこれから面白いことができたらいいねって話していて。彼女が映画をセレクトしてそれに茶を合わせて、映画を観ながらお茶を飲んでくださいっていうのができたらいいねってアイデアを実現させたいなと。それって、ある種の茶室だと思ってるんですよ。茶室 (に見合うもの) って現代でいろんなもの選べますよって言ったら、僕は一つの答えが映画館だと思っていて、通されて映画を見るって掛け軸を見るのと同じだと思うんですよ。掛け軸を見てそれをどう感受性豊かに受け取れるか、どうコミュニケーションを取っていけるか。映画館だと「静かに見る」ってことがある種の所作かもしれないし。あるとしたら仏教的な要素なのかそうじゃないのかってこともあるのかもしれない。思想がどう反映しているのか。 (安藤さんが) やってることは僕にとっても超興味深い。僕が映画を撮ることは100%ない、いまの時点ではそう言いますけど、どうして安藤さんが映画をやろうとしてるのかは異常に興味ある。
ツールとして自分たちがプロフェッショナルとして知ってることでやっぱりコミュニケーションを取っている。だから、もしかしたら茶でも映画でもないことをやるかも…… (安藤)
———お二人がやろうとしてることがシンクロしてるってことにいますごく合点がいきました。
丸若:ね、どうシンクロするんだろうと思ってたんだけど。なんかあるじゃないですか、おしゃれ文化人みたいな人が……誰ってことじゃないですよ (笑) 。ヨガとかお茶を楽しむのがマイブームなんです、みたいなのあるじゃないですか。
———お茶きてますねー、みたいな。
▲ GEN GEN ANのロングスリーブシャツに着替えてポーズ
安藤: (笑) おかしー。お茶きてるよ!
丸若:なんか「お茶やっちゃってます」なんちゃって文化人が「映画は何々観ないと始まんないよね」みたいな感じに聞こえるけど (笑) 。そうじゃなくて、安藤さんは本当にすごいフラットなんです。
安藤:たぶんめちゃくちゃ本能と自然のバイオリズムに沿って人生の選択をしてるだけなの。だから周りで結構チームだなと思うような人たち同士とか、志が同じところにある人たちは結構同じバイオリズムで……
———ああ、合って来るのかもしれないですね。
丸若:仮に離れていてもね、なんとなく同じものを受けて。
安藤:サーフィンで言うと、同じ波が来たときにどこに乗ってるか。だいたい同じ湾でやってたら、来てる波が一緒。あっちに行って、こっちに行って。
丸若:だからそこで自分がやってることの答え合わせじゃないけど、勇気って言うか、いつもそういうものをもらえるし、何かしらでも返せるものがある自分でいたいなと素朴な気持ちにもなれる。そういう関係がここ何年間かずっと続いてたりするんです。
———桃子さんは高知に移住してるし、生活の場も表現する分野も違いながら、シンクロしている感じが面白いですね。
丸若:まあなんか、仕事的にはなんか企画したりとか、ファッションとかアート的なものとかもできると思うんですけど、二人でやるときには出来上がったものがどれだけ美しいかを最優先したいなと。究極、じゃあ僕が映画館のチケットのモギリをやったら、空間が1ミリでもよくなるんだったら、もう何にも考えずにそれをやるし。関係性としてはそういう感じなので。だからさっき言ったみたいにやっぱり映画を観るときにどういうものを体内に入れてるかっていうのはすごくバイオリズムを整える上で重要だと思っていて。
———なるほど。
丸若:だからそれに合うお茶を何か提供できたらすごいいいなと思うし、それが記憶に残ってくれたら更にいいなと。映画って視覚はハンパないけど、残念ながら味覚とか嗅覚ってものにアプローチするものではないじゃないですか。まあ想像させるものではあるとは思いますけど。それを僕が何かすることによって、そのお茶を飲んだときに何かフラッシュバックでがっちり思い出すとか、匂いもそうですけど、なにかプラスできたらすごく嬉しいなとか思ったりはします
▲ 丸若着用のTシャツは安藤からのプレゼント。世界中の巨匠監督の名が列挙されている
———映画館ってコーラとかポップコーンとか、結構味覚を麻痺させる方向の飲食がデフォルトになってるじゃないですか。でも、プラス何か飲んだりすることが許されるんだったらお茶っていうアプローチはすごく面白いなあ。
丸若:だからたとえば何かの映画を見て、そのときにお茶飲んでたとしたら、究極あとでそれをスマホで見てもお茶飲んでもう一回そこに飛べると思うんですよ。人間ってそのくらいの再構築の能力があると思うんですよね。
安藤:たぶん表現していきたいことって人それぞれにあると思うんですけど、その出し口が私は映画だっただけで、映画じゃなくてもいいと思うんです。料理でも……何でも。だけど映画だったんですよね。自分が表現したい時空の出口が。なんか丸若君と話してるときはたぶん、茶じゃなくてもいいし映画じゃなくてもよくて、自分たちがこれを表現して生きていきたいっていうのがブレてないから、そこでの会話に結局なるという。でもツールとして自分たちがプロフェッショナルとして知ってることでやっぱりコミュニケーションを取っている。だから、もしかしたら茶でも映画でもないことをやるかも……。実際そんなようなことを一緒に考えてたり動かそうとしているので。
———そのとっかかりとして、映画館を茶室化するとか、茶室で映画を観るのかはわからないですけど、映画にとっての茶室を保持している、貴重な状況じゃないですか。
丸若:そうですね。これをちゃんとインフォメーションに載せて、このお茶を飲んで映画を観たらハッピーだから観てくださいね、って導入をするのか、なんも言わずに単純にコーラの代わりに水出しのお茶があって、子どもとか知らないで来て普通に飲んで「おいしー」って感じて帰って行くだけでも、アウトプットの仕方がどっちかはあんまり関係なくて。だけどなんか、せっかくのこういうタイミングだからなんかしてみたいなっていうのが個人的にあったり、もしかしたらこの二人だけで完結しちゃうかもしれない。
———ああー。
丸若:そういうのをちゃんとプランニングしないで、二人とか数人で一回そのノリでやってみたらどうなんのか実験してみようとなるかもしれないけど、映画館は彼女がやっぱり本当にエネルギーを注いで作ったものなので。本当に一年なんですよ。一応ね。
安藤:まず一年であの建物 (安藤さんが高知に作った特設映画館) が壊されるの。すごいちゃんとしたというか、常設の映画館なんですけど、隣りにアンドギャラリーっていうギャラリーも常設されてて、でも一年限定で。
———一年だけなんですか!
安藤:建物自体は壊されるので。そのあとそこでそのまま再開するにしても…。再開したいっていうか、再開させるぞって思いで完全常設の映画館を期間限定で建てたっていうのはあるんですが。だからいまの場所でいまのまんまやるっていうことは一年、今年いっぱいなんですが。丸若くんとのコラボレーションとかもやりたくって隣にギャラリーを作って、いまはドリス・ヴァン・ノッテンのドキュメンタリーやってるから、クリエイターズフリーマーケットとかで高知で買えないブランドの服とか売ってるんです。あの映画観たときに「おしゃれしたい!」とかなるから。「メルカリ開けちゃう!」みたいな(笑)「ドリス・ヴァン・ノッテン」「ドリス・ヴァン・ノッテン」(検索するジェスチャー)ってなるわけですよ、女子は(笑)
▲ 映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』
———へえー。映画終わったあとの気分を引きずれるのは楽しいですね。
安藤:映画終わったあとも、観る前も楽しめるというか、映画がもっと奥まで残って浸透させる。このあいだ夜のイベントはラヴァーズ・ロックのドキュメンタリー (『ストーリー・オブ・ラヴァーズ・ロック』) を観てもらって、で、隣りでDJがラヴァーズ・ロックを回すという。映画ってドーンって来ても、街に出たら世界が戻っちゃうじゃないですか。たぶん特定の茶を映画に合わせて飲ませるっていうのは「刷り込む」みたいな感じかなと。ペラって塗ったものを粘って粘って「奥まで奥までもっと染みろー!」ってやるのが茶の役割になると思うから
丸若:うん、そうですよ。
安藤:だから例えば観る前と後に茶会があって、本当にきちっと淹れた茶をそこで集中して飲むってことができたら、それはそれで一日の体験で濃いものになるなあと。
丸若:なんかサプライズがあって、さっきの奈良の茶あるじゃないですか、まあそんな映画があるかどうかわからないですけど、大和朝廷の何かすごい映画があるとするじゃないですか。それを観終わったあとに、こういう土地があって、そこでこういう旨いものがあります、茶です、ってなったら、なんか飲んだときのゾクゾク感じてたぶん……
安藤:全然違うよね!
丸若:違う! と思うんですよね。
安藤:で、単純に話したくなるよね。「あのシーンの!」「あの……」って。それで「もっかい観ちゃおうか!」ってなる。
丸若:ね、そうそう。結局はハッピーな経験であればいい。
▲ 丸若の淹れた茶の味に思わす感嘆の声が上がった
幻幻庵 GEN GEN AN
住所: 東京都渋谷区宇田川町4-8
時間: 11:00〜19:00(火、水、日)、11:00〜23:00(木、金、土)
定休: 月曜
https://en-tea.com/pages/gengenan安藤桃子
高校時代よりイギリスに留学、ロンドン大学芸術学部を次席で卒業。ニューヨークで映画づくりを学び、 監督助手として働く。2010年4月、監督・脚本を務めたデビュー作『カケラ』が、ロンドンのインスティチュート・オブ・コンテンポラリー・アートと東京で同時公開される。その他多数の海外映画祭に出品、 国内外で高い評価を得る。2011年に初の書き下ろし長編小説『0.5ミリ』を刊行。また、2014年11月には、同作を自ら監督、脚本した映画『0.5ミリ』を公開。第39回報知映画賞作品賞、第69回毎日映画コンクール脚本賞、第36回ヨコハマ映画祭監督賞、第24回日本映画批評家大賞作品賞、第18回上海国際映画祭アジアンニュータレントアワード部門にて、最優秀監督賞、優秀作品賞、優秀脚本賞を同時受賞など数々の賞を受賞している。2017年10月高知市に自身がプロデュースする映画館「ウィークエンド キネマM」を開館。同12月にはポップアップストアー「& Gallery」をオープン。ゼロ・ピクチュアズ公式ホームページ
http://www.zeropictures.co.jp/「0.5ミリ」公式ホームページ
http://www.05mm.ayapro.ne.jp/CREDIT
司会: 稲田浩 / 写真: 森本洋輔
- GEN GEN AN Owner
丸若 裕俊 / Hirotoshi Maruwaka
東京生まれ横浜育ち。多種多様な文化が交わる港町で幼少期を育ち、イタリアファッションブランド勤務や日本各地の放浪の後、日本の職人との衝撃的な出会いを機に「モノコトづくり屋」丸若屋を設立。日本文化との取り組みは、パリ、ミラノ、ロンドンなど数多くの評価を得る。自身の集大成と位置付ける「EATING GREEN TEA」を掲げた、畑から世界市場を生む茶葉ブランドEN TEAを始動。 http://maru-waka.com/ http://www.en-tea.com/ https://www.instagram.com/gen2an/