「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」 連動インタビュー
本田直之さん、東京は今食べ頃ですか?
国民食から海外の辺境料理まで。伝統食ありニューウェイブあり、価格帯もハイ&ローで点在し、選択肢は無限にある東京の食。その豊かさと魅力を国内外に発信すべく、5月19〜21日、東京有明で食の祭典「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」が開催される。連携会場なども駆使しながらトップシェフたちが揃い踏み、かつユニークな企画が目白押し。東京中が食の話題であふれかえる週末になりそうだ。
そのなかでも特別企画として、世界中のレストランを訪ね歩いてきた食の賢人・本田直之氏と、2022年「アジアのベストレストラン50」で1位を獲得した外苑前[傳]の長谷川在佑がコラボしてイベントを計画中だとか。同フェスティバル開催に先立ち、本田氏に「東京の食」について話を伺った。
*RiCE2023年5月号『おいしい東京』特集掲載記事を再編集しています。
世界中を食べ歩いてきましたけど
やっぱり東京の食はダントツで強いと思う
経営者、ベンチャー投資家、ベストセラー作家、食イベントのプロデュースなど、さまざまな顔を持つ本田直之さん。世界各国のレストランを食べ歩き、現在は日本各地の食の魅力を世界に発信することにも尽力している真の食通人だ。長年、“食”を通して世界を見続けてきた本田さんが、“東京の食”のイベントで仕掛ける狙いとは……。
ー本田さんは『Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023』という食イベントのプロデュースを手がけられるということですが、どのような内容を予定されているのでしょうか?
本田:まず今回、東京の今を国内外に発信できるような食のイベントをプロデュースしてもらえないかとご依頼いただいたんですね。コンセプトがズバリ“東京の食”ということで、いろいろ考えたところ、そもそも現代の食文化のベースは江戸時代に完成されたものが多く、“東京の食”は現代日本の食文化の起点になっていると言えるわけです。中でも、特に江戸の四大食文化である鮨・そば・天ぷら・鰻は、食文化としての伝統を守りながらも、現代に合わせてすごく進化している。それぞれの変化と歴史を紐解きながら、各カテゴリーのトップシェフ達の料理を楽しんでもらう特別企画を設けるのが、東京の食を表現するのにいちばんいい方法じゃないかな、と考えました。
ーイベントは[傳]の長谷川在佑氏とコラボレーションで行われ、実際に料理を提供するシェフ達も、各ジャンルを代表する錚々たるメンバーが参加されるそうですね。
本田:こういうイベントプロデュースをする時って、自分自身が行きたくなるような内容、ワクワクする内容にしないと、人を感動させるイベントにならないんですよ。 なので参加してもらうシェフは、それぞれに江戸四大食文化の伝統を守りながらも“今”を表現できて、かつ僕が好きなお店のシェフにお願いしています。それプラス、やはり日本の食文化を海外にアピールする意味でも、2022年に『アジアのベストレストラン50』の一位に選ばれた、日本が世界に誇るシェフである在佑の協力は不可欠だな、と。彼の名前があると、現在の日本最高レベルのフードイベントだということが、一発で伝わるんです。
ーなるほど。ここであらためての質問になりますが、本田さんは“東京の食”にどんなイメージをお持ちですか?
本田:もともと東京の食って、本当にすごいと思うんですよ。僕、世界中を食べ歩いてきましたけど、やっぱり東京の食はダントツで強いと思う。その証拠に、僕も投票をしている『OAD(Opinionated About Dining)』という海外のレストランランキングがあって、『ヨーロッパ・トップレストラン』とか、『アジア・トップレストラン』、『ノースアメリカ・トップレストラン』など大きな地域ごとに分かれてるんですけど、日本だけが『ジャパン・トップレストラン』と別立てになってるんです。このランキングは本当に世界中を食べ歩くフーディたちが投票していて、世界で最も信頼のおけるランキングのひとつなんですけど、このカテゴリー分けだけでも、世界中の人が日本は特別だと認めてる証ですよね。そしてそのランキングでは、やはり東京のお店が突出して多いんです。
ーなるほど。なぜ日本には、世界的にも突出した食文化が生まれたのでしょうか?
本田:食に対するこだわりが半端ないからじゃないでしょうか。みんな食べることが好きだし、食材に恵まれてるというのもあるし。あとはひとくちに日本食と言っても、地域によって全然違いますよね。 ジャパンタイムズと組んで『Destination Restaurants』というアワードをやってて、選考対象は“東京23区と政令都市を除く”あらゆるレストランなんですけど、もう本当に日本中にいいレストランがいっぱいあるんですよ。その地域独自の食文化がベースになってたり、食材にも地域性があって。スペインやイタリアがちょっと近いかなと思います。みんなイタリア料理って言うけど、“イタリア料理”って料理は存在しなくて、トスカーナ料理だったり、ピエモンテ料理だったり、全然違うじゃないですか。その地域性の差が日本もすごく大きくて、だから食文化が深いんだと思いますね。あとはやっぱり丁寧というか細やか。シェフも料理に対して真剣だし、レベルも高いですよね。僕の『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』という本にも書きましたが、パリのレストランから日本人シェフがいなくなったら成り立たない、と言われるほど、世界中で日本人シェフは活躍している。それはやはり、日本人の食にかける情熱や丁寧さが特に優れているからだと思います。
ー最後に、近年の“東京の食”について、本田さんが感じることを教えてください。
本田:どんどん若い人が出てきてますよね。たとえば鮨とか和食の世界だと、昔は40歳ぐらいにならないと独立できない、みたいな不文律があった。それがいまや20代でバンバン独立して、いい店を作っていく流れが生まれてるので、総じて若手の勢いが増している感じがします。先ほど江戸の四大食文化について、伝統的であると同時に進化してると言いましたが、やっぱり今に合わせて進化し続けないと、“伝統的”ではなく“古さ”になってしまうんですよ。その意味でいうと、シェフそれぞれのオリジナリティというか、その人ならでの哲学をしっかり感じられる若い世代が、どんどん新しい店を生んでいってるように思います。
本田直之
レバレッジコンサルティング株式会社 代表取締役社長。ハワイ、東京に拠点を構え、ヨーロッパを中心にオセアニア・アジア等の国々を旅しながら、仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送る。屋台・B級から三ツ星レストランまでの食を極め、著名シェフのコラボディナーなどのプロデュースも手がける。近著に『パーソナル・トランスフォーメーション』(KADOKAWA)。
Instagram@naohawaiiPhoto by Kenta Aminaka
Text by Haruko Saito
Edit by Shunpei Narita
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