芸人・放送作家 佐藤満春さんの新著刊行特別インタビュー

『凡人の戦略』と、等身大の山盛りポテトフライ


RiCE.pressRiCE.press  / Nov 1, 2024

「サトミツ」の愛称で知られる佐藤満春さんは、2001年、岸学さんと芸人コンビ・どきどきキャンプを結成。2008年にはTV番組「爆笑レッドカーペット」で相方・岸さんによるジャック・バウワーのモノマネネタがブレイク。佐藤さんは“じゃない方芸人”とも呼ばれるようになるが、2009年から放送が始まった「オードリーのオールナイトニッポン」では見習いから次第に放送作家として頭角を表し、多い時には20本以上の番組を担当、今や人気放送作家として活躍中。多くの番組や芸人を裏で支える仕事人となった佐藤さんの新著は『凡人の戦略 暗躍する仕事術』。その真意を尋ねるべく、“差し入れ”を携えて佐藤さんにインタビューを行なった。

——「凡人の戦略 暗躍する仕事術」というタイトルには、ふだんビジネス書を読まないような人も惹きつける響きがありますね。新刊の肝になっているのは、どんな考え方なのでしょうか?

 僕自身、すごい才能を持っているとかスーパースターで大金を稼いでいるみたいな人間ではありません。そんな僕でも、二十数年お仕事をする中で、結果として「戦略めいたもの」が色々あったなと。こうした本を出せることもそうですけど、本当に運が良いことに自分の実力とか身の丈よりもずいぶん大きな仕事をたくさんいただいているなとずっと思っていて。それって多分何かの法則があるはずというか、ただ運の良さだけじゃない何かがあるんだろうと思っていたんです。自分のこれまでの歴史を振り返ったときに、仕事がどっと増えたタイミングがあったんですけど、増えていった理由は何なのかとか、“自分のストロング”は結局何だったのかとか考えていった結果、戦略と呼べるようなものが浮かんできたという感じです。僕は本当にただの凡人なので、意外と皆さんにとってもあるあるだったり、共感していただけることが多いのではないかと、そういう意味で仕事術としてまとめさせてもらったと。

——「仕事術」というとリーダーの話とかどう優秀になるか、みたいなことが語られそうですが、「凡人」「暗躍」という言葉はいい意味で違和感を醸し出していますね。

 世の中でキラキラと光り輝いて表に立っている人たちとか成功者——何をもって成功とするかはあれですが——って一部で。基本的には実直に、陰か日向かでいうと陰側にいながら歯食いしばって生きるしかない人の方が多いわけじゃないですか。そんな中でできることって実はあるよねっていうところですよね。

 あとは多様性だなんだって急に言われるような時代になって、「好きを仕事に」「楽しく生きよう」みたいな風潮がある。僕はそれがあまり好きじゃなくて。もちろん楽しい夜も忘れられない夜も、とんでもなく笑う夜もたくさんありますけど、基本的に歯を食いしばりながら生きてるし、大変なことばかりの毎日です。「夢を見ろ」とか「好きなことを追求しよう」とか、そういうキャッチが踊っている世の中で、そこに対してすごく懐疑的な僕がいるんです。等身大に生きたって別にいいんじゃないかと思ったことのメモが積み重なって、それが結果的に僕の戦略だったっていうところですかね。

——前作(『スターにはなれませんでしたが』)に対しても「自分のことを読んでいるみたい」「共感できすぎる」という読者の声が多く寄せられましたが、前作と今作の違いはどういった部分ですか?

 前作はどっちかというともうちょっと大きく生き方とか僕自身のこととかだったんですけど、今回は「仕事とは?」「お金を稼ぐとは?」「食っていくにはどうしていくんだっけ?」っていうところを深く掘り下げた本になっていますね。

——その“戦略”とはどんなものなのでしょうか?

 一つには、自分の評価って全然信用できない、ということです。放送作家の仕事は基本的には依頼をいただいて初めて仕事が成立する。番組によって限られた予算の中でお金を使って、いわゆる台本書いたりとかアイデアを出すという放送作家としての役割を僕にわざわざ振ってくる。お金をかけてまで僕を雇おうとするということは、“何かのストロング”が僕にあるはずじゃないですか。それって実は自分ではなかなか気づけないんです。でも、なんで自分を雇ってくれるんだろう、というところから自分への評価をどう見極めるかということがすごく戦略的に大事なことだなと僕は思います。

 自分の話でいうと、今やっている担当番組をブワって並べた時に、「DayDay.」「ヒルナンデス!」「ズームイン!!サタデー」「ZIP!」ときて「自分って朝の情報番組めっちゃ強いじゃん」っていうことになるんですよね。これが僕のストロングなんだっていうのは蓋を開けて気づくもので、結果的に戦略になっている。

 自分で自分を鏡で見て実力を知るっていうのはすごく難しいんです。けど、頼られたり依頼された事実をしっかり冷静に分析することが、実は自分のストロングを見つける近道なんだなと気づいたんです。それって多分いろんな人に言えることだと思います。会社員でも公務員でも。運とか縁とか出会いとかもあるでしょうけど、スキルがなかったら次の番組には呼ばれないでしょうし。僕は結果として、毎日汐留(=日本テレビ)にいることになったわけですけど、そこに僕の強みがあったんだと自己評価できるようになったのは、僕を頼ってくれている方たちのおかげです。自分を過信しすぎないで済むというところもありますね。

——自分のイメージが先行してしまうと、人から言われることや評価との差って気持ち的になかなか埋められないものですよね。

SNSの影響なのか、なんでこんな時代になっちゃったのかわからないですけど、「自分がこう見られたい」「こう思われたい」みたいな意識が強い人が多いじゃないですか。それはすごく邪魔だと思っていて。もちろんブランディングとして大事だったりすることはあるんでしょうけど、そんなことよりも自分のリアルな姿とか実力とか、強みも弱みも含めて、それをどうあぶり出していくか。そこには怖さももちろんあるとは思います。でもそれは現実なので。どう見極めていくかっていうのを意識するのとしないとでは全然違うと思うんですよね。

——そうしたマインドセットはいつから持っていたものなんですか?

 僕は小一でサッカーを始めたんですけど。当時『キャプテン翼』がブームで、少年サッカーもブーム。僕は町田市ってところの出身なんですけど、少年サッカーが盛んな街で、クラスの男子の半分以上はその少年サッカーチームに入るくらい。学年を重ねるごとに僕より後から入った人がレギュラーになっていく。僕はどんどん3軍とか4軍になっていって。これってもう向き不向きがあるってことじゃないですか。でも当時は「頑張れば夢は叶う」とか「結果が必ず出る」とか「努力は裏切らない」みたいなことがすごく言われていて。それに当てはまることもあるかもしれないけど、僕は違う何かがあるんだろうって、誰も教えてくれなかったからこそ小学生の当時すごく思ったんですよね。

 僕は真面目なんですけど勉強はできない。で、桜美林大学っていう大学を出てるんですけど、桜美林大学ってなんじゃいって思いません?(笑) 僕はすごく好きな大学なのですが、世の中でこうやって話す時にはやっぱり早慶上智とは違うわけじゃないですか。でもそれが僕らしさで、桜美林大学がすごく僕っぽいなと思う。なんじゃいその大学って思われるところもすごく可愛いし、僕はすごく大好きなんですよ。そういう自分を愛せるかみたいなところって、全てにおいてあると思うんですよ。芸人の仕事だって、みんなダウンタウンさんみたいになれるかっていうとなれないわけで。それぞれの形があって、その上で覚悟しなければいけないこともあるし、諦めなきゃいけないこともある。僕は身長が168センチなんですけど、170センチに届かなかったわけですよね。ないんです。そもそもの素養みたいなものは全てにおいて実はあるのに、そこに蓋をして、努力でガッツでどうにかなるみたいなことってすごく効率が悪いじゃないですか。だったら桜美林大学なりの、168センチなりの頑張り方とか魅力の出し方とか武器を作ればいいわけですよ。劣等感を抱いて「クソ、この大学で恥ずかしい」とか言っていたら、そっちの方が恥ずかしい。

 鏡見てる自分をそもそも誰だと思ってるの?っていうことだから。勉強にしても生まれ持った何かがある、これは明確にあると思うんです僕は。仕事のちょっとしたスキルとか、全部においてあるわけですよ。目に見えないから気づきにくいんだけど、ちょっとしたことでも自分なりの頑張り方があるんだと僕は思ったんです。真面目にやるとかはもちろん前提であるけど、求められるとか人に欲してもらえるか、その理由にいち早く気づいてそこに軸足を置けるか、というのは早い方が良いと思うんですよね。

 本の終盤に書いたんですけど、僕は超人気店の行列のできるシュークリームを作ることができない。残念ながら。でもその中のすごく細々とした作業をたまに任せられたりすることがある。それって表には出ない仕事だけど、誰かにその作業がすごいねって思われて任されてるわけですよ。それで良いっていうことなんですよ、僕の生き方は。「暗躍」はまさに誰かから頼られること。

 承認されようとすると疲れるじゃないですか。良く思われようとか。僕はこれ(僕自身)なので結局は。誰かからよく思われようとか承認されようみたいなことって疲弊しか生まないというか。コイツなわけだから結局。僕がジャッジできないことはもうしょうがないんですよね。この取材だって、つまらない話だったなって思われても、そこももう委ねているというか、どう思われてもいいというか。こんな機会をいただけたこと自体がありがたい。佐藤満春の本を出すなんていうのは、一冊だけでもラッキーなのに、もう一冊出すっていうね。こんなこと人生で考えられないわけですよ。ものすごく時間をかけて書きましたし、良い内容の一冊ができました。でも100万部売れる本ではないんです。それでもなんとか(本書編集担当の)遠藤さんが、あの本出してよかったよねと、社内的に立場が悪くならないぐらいの売り上げを出そうというのを向こう一年の僕の生きるテーマとして頑張ってやろうと思っています。

——きっと多くの人が共感する内容だと思います。話が変わりますが、今日は少し差し入れ的な食べ物をお持ちしました。先日「星野源のオールナイトニッポン」でガストからの放送がありましたが、ガストの「山盛りポテトフライ」が大好きとのことで。それをお持ちしました。

 わー、すごい。ほんとですか! 僕はもう本当に山盛りポテトフライばっかり食べてきましたから。これだけあれば僕は生きていけますから。本当に山ほど食べて生きてきました。

——ガストにはどんな時に行くんですか?

 ガストは、ネタ作りでも行っていましたし、学生時代にももちろん行ってましたし。僕は、食べ物が絶望的にわからない人間なんです。ただ、このガストの山盛りポテトフライは大学時代から、ガストが世に流通し始めた頃から、「ドリンクバーと山盛りポテトフライ」っていうものをずっと注文し続けていて。

 それこそ(オードリーの)若林くんと出会った25、26歳ぐらいの時。一緒にガストにずっといて「サトミツずっと食べてるよね、山盛りポテトフライ」っていう話になったんですよ。食に興味がない中でもガストの山盛りポテトフライが、確かにこれがとにかく美味いなっていうことは思っていて。それはもしかしたら思い出とともに美味しいのかもしれない。お金がない時だったけど、こんなにたくさん食べていいっていう。ドリンクバーも無限に飲んでいいみたいな、お金がなくても楽しませてくれるっていうエンタメ性も乗ってっていうところで。

 あとは山盛りポテトフライを頼むことで、例えば若林くんといたとしたら、若林くんも食べられるわけじゃないですか。こんなハッピーなことないですよね。こんな美味しいものがいっぱいあって、好きな友達と一緒に食べられる。それが最高だったんですよ。それで星野源さんのガスト回の時にも、やっぱり頼んだ時に星野さんも春日も若林くんも僕も食べて、やっぱり同じ味で。今も昔も美味しいわけじゃないですか。東京ドームアーティストですよ、星野源さんなんて。オードーリーだって5万3千人、ほぼ16万人視聴みたいな。俺だけ“町田の人”みたいなね。俺だけ“等身大の山盛りポテトフライ”なんですけど。みんな飾らない人たちだけど、そんな仲間とも美味しく食べられるっていうのは、ガストすごいなっていう。

 あの時やっぱり星野さんはすごいなって思ったんです。収録後に、わざわざ僕を見つけて来てくれて、めちゃくちゃ丁寧に雑談をしていかれたんですよ。あの回だってオードリーだけでも成立するのに、佐藤を呼ぼうって星野さんがオファーしてくださったんです。僕はめちゃくちゃ体調が悪い時に、星野さんの「地獄でなぜ悪い」っていう曲に助けられて。すごく好きな曲なんですけど、それを放送中に言うのはどうかなって思って言わずにいて、放送後に言えたんです。誰に認められなくてもいいって生きてるけど、本当にたまに、そういう人が急に出てくる。遠藤さんもそうですけどね。佐藤満春で本を出そうなんてなかなかなわけで。生きてると、オードリーとか星野さんとか遠藤さんとか、佐藤の話を聞いてみようとか、佐藤に何か興味を持ってくれる人がたまに出てくる。それがありがたいですよね。

 あの次の日、家族でガスト行きましたもんね。頼みましたもん、もう一回。これはやっぱり家族でも食べた方がいいんじゃないかって思って。他にも好きなもの山ほど頼んでみようって、奥さんと子供と行って。これ以上の幸せはないじゃないかななんて。

 本当はもっと僕も美味しいお店に詳しくなりたかったんですよ。でも全然ダメ。本当にRiCEさんに一番向いてない。

——そんなことないです! 裏話も聞けて嬉しいです。カレーもお好きだと聞いたので、ロケ弁の定番とも言える[オーベルジーヌ]の「ビーフカレー」もお持ちしました。食べられますかね……?

 これ美味いっすよね。今日お昼食べられてなかったのでありがたいです。このじゃがいもが良いんですよね。これ最高なんすよ、ちょっとバターもあって。最高な取材じゃないですか!

 味音痴で何が入ってるとかわからないんですけど、でもカレーってもうカレーというか、絶対うまいじゃないですか。カレーは家で家族に作ったりもするんですよ自分で。

 この間、子供が学校行って、うちの妻が駅前の整体に行って、ちょうど終わったっていう連絡を昼ぐらいにもらって。僕もその日朝の仕事だけで午後は全部リモートだったんで早く帰ったんですよ。それで久々に妻と二人で駅前で合流してなんか食べようかって。いつもデリバリーで頼んでるカレー屋さんがこのへんじゃないかって言って歩いて行ってそこに入ったんです。いつも食べてるバターチキンカレーとナンのセット、変わらず美味しくて。お店に来たという新鮮さもあって、しかも息子がいないで二人で食べのも久しぶりで。カレーを今こうやって奥さんと二人で昼間に食べていいって、めっちゃありがたいなぁって思いながら食べて。家まで15分くらいの帰り道を歩きながら、ふとチャゲアスのサブスクが解禁したっていう話を思い出して、妻がチャゲアス大好きだったので、じゃあって言って聴きながら帰ったんですよ。僕の Apple Music、僕のイヤフォンで片耳ずつ入れて。奥さんはライブ行ったりするぐらい好きだったっていうから、じゃあ刺さったであろう曲を順番にかけてくわって言ってかけていったんですよ。そしたら、「あー」ってリアクションする曲と、歌い出す曲と、泣き出す曲と、その15分に気持ちがふんだんに詰まってたんですよ。駅前でカレー食ってチャゲアスを一緒に聴きながら帰るって、なんかこれ以上のことはもうないだろうなと思ったというか。なんか青春感もあるし。二人とも46歳だし現実もあるし、子供もいる、町田市って別に高級住宅街でもないし、食べたカレーも高級なものでもない。でも、家に着いて「すげえ時間だったな」と思ったんですよね。どれが欠けても違ったというか。あそこでカレーを食べてなかったら違った気がするし。結婚して14年なんですけど、14年なんとか生きてこれたよねみたいな話もしながら、こうやって駅前で会ってカレーを食うってことをできるのもいいよねって言って。僕らみたいな仕事してると、急に食えなくなる人もいる中で、ありがたいことにこうやってふと、千いくらのカレーではあるけど払えるわけじゃないですか。それができて、チャゲアス聴いて奥さんが泣いてるのを見て、なんかすごい良い出来事だったんですよね。めっちゃ良かったな。カレーで思い出しました。 

——そんな素敵なお話までありがとうございます。今日のお話を聞いて本を読むとより深く入ってくる気がします。

 まさか食べ物の雑誌で僕を取材してくださるなんて。でも、山盛りポテトフライの大使みたいなね、いつかなりたいですけどね(笑)。ガストの回から何度も食べに行きましたから。ごちそうさまでした。

佐藤満春|Mitsuharu Sato
1978217日生まれ。東京都町田市出身・町田市在住。お笑い芸人(どきどきキャンプ)として活躍しながら、現在はニッポン放送「オードリーのオールナイトニッポン」、日本テレビ「スッキリ!」など16本の担当番組を抱える放送作家/構成作家としても活動。2023年2月には自身初の自叙伝『スターにはなれませんでしたが』(KADOKAWA)を発表し話題に。2024年11月1日に『凡人の戦略 暗躍する仕事術』が発売。

『凡人の戦略 暗躍する仕事術』
佐藤満春・著
定価:1,760円(税込)|ISBN:9784046071927
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KADOKAWA書籍ページ 

Photo by Misa Shimazu(写真 島津美沙)IG @smzms_620
Interview & Text by Yoshiki Tatezaki(取材・文 舘﨑芳貴)
Editorial Assistance by Ai Hanazawa & Megumi Bunya(編集補佐 花沢亜衣、文屋めぐみ)

 

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