カフェを監修した山本宇一氏へ特別インタビュー

表参道・montoak跡地に複合型コンセプトストア[V.A.]がオープン


多くの人々に惜しまれながら閉店した東京・表参道のカフェ[montoak]の跡地に、複合型コンセプトストア[V.A.]が20241215日にオープンした。店名の[V.A.]は“Various Artists”を意味し、様々なモノやコト、ヒトの交差する場所として新たなカルチャーを発信する。

内装は[montoak]時代に作り込まれた箇所を一部残しながら、新たにリノベーションが施され全く新しい印象に。

店舗の機能として、1階は物販・ポップアップスペース、2階にはベーカリーショップ[VAT BAKERY]とカフェスペースが広がっており、買い物をした後に店内でゆったりとした時間を楽しむことができる。

Champion」や「L.L.Bean」など、名だたるブランドとコラボレーションした限定アイテムが揃う。「UNDERCOVER」デザイナーの高橋盾氏、「WTAPS」などのディレクター西山徹氏が[V.A.]のために制作したアイテムも。カルチャー好きにはぶっ刺さるものがたくさん
VAT BAKERY]のロゴは、工場からモクモクと浮かぶ煙をイメージしたデザイン。2階のショーケースには12種類のパンやドーナツなどが並ぶ。パンは店内1階のポップアップコーナー横で焼き上げられていて、買い物をしている時にその様子を見ることもできる

こちらの[V.A.]だが、JUNグループが運営のもと、ディレクターには藤原ヒロシ氏、ストアデザインは荒木信雄氏、店内2階に広がるカフェスペースは山本宇一氏が監修とまさに東京を代表するクリエイターが勢揃いした。今回RiCE.pressでは飲食部門にフォーカスすべく、山本氏へのインタビューを実施した。

――まず[V.A.]の構想がスタートしたときのことを教えてください。

店名の[V.A.]は“Various Artists”の略で、その言葉どおり、いろいろなクリエイターが携わり出来上がったお店です。でも店に関わる人だけではなく、来てくれるお客さんも、いろいろなタイプの人に楽しんでもらえる場所にしたかった。物心ついた頃から原宿に通っていますが、“多種多様な人やものがミックスされていること”が、原宿の面白さだと思っているので。

――[V.A.]以前の[montoak]の頃から、原宿を長い間見つめてきた山本さんならではの感覚ですね。昔の原宿と現在の原宿は、やっぱり全然違うものですか?

違いますね。名だたるブランドやスターがひしめき合っているのはどの時代も同じですが、それでいながら変わり続けている。最近の原宿についてあえて語るのであれば、大きな企業や外国資本のお店が増えていて、仕掛け人の「顔が見える」印象は薄いかなと感じています。いわゆる裏原カルチャーが盛り上がっていた頃には、ファッションブランドを手がけている“人”が、もっと立っていましたから。
今回のプロジェクトにはヒロシ君(藤原ヒロシ氏)がいて、荒木君(荒木信雄氏)がデザインをやっていて。顔が見えるお店であることが[V.A.]の特徴のひとつかなと思います。

V.A.]外観。[montoak]時代同様、店内のカフェスペースからは表参道の大通りを行き交う人々の姿を一望できる

――今回[montoak]時代の内装をいかしつつアップデートした店舗デザインも印象的でした。

もともと[montoak]は形見君(形見一郎氏)にデザインしてもらっていたんだけれど、ものすごく強度のあるデザインですから。今回ヒロシ君と荒木君は形見君のデザインを尊重してくれて。全く新しい場所をゼロから作るのではなく、リノベーションという形、当時[montoak]の様式がそのまま受け継がれている部分が多くあります。
ベーカリーの階段を上ったところにある椅子はヒロシ君のお気に入りだった、神田の[珈琲専門店 エース](20245月に閉店)から譲り受けた物です。

1階エントランス。茶木目の床は[montoak]時代から受け継いだもので、グレーに塗装された部分は今回リノベーションによって新たに施行されている。店内の至る箇所にこの茶木目とグレーが点在し、継承と変化を肌で感じることができる
ベーカリーからカフェスペースへと続く階段。こちらの床も[montoak]時代のままだ
神田[珈琲専門店 エース]から譲り受けた椅子も並ぶ

 ――そんな場所を宇一さんが今回カフェ監修するということですけれど。一体どのようなコンセプトでやられたのでしょうか?

 「遊園地みたいな場所にしたい」という想いがありました。1階で洋服を買うこともできればパンも食べられるし、カフェでゆっくり過ごすこともできる。子ども頃の自分が原宿で“楽しいな”と感じた場所って、男の子も女の子も年齢も関係無くみんなが楽しめるような、本当に遊園地みたいなお店だったから。[V.A.]も現代におけるそういったお店のひとつになれたら嬉しいです。

ビビッドな赤が目を引くカフェスペース

――カフェスペースは席1つ1つの座席のサイズ感や、テーブルの間隔などが全体的にコンパクトですよね。人と人の距離感が「近い」印象を受けました。

この距離感は気に入っていますね。意識的にやりました。たとえば隣に知り合いがたまたまいたときに、距離が近いとラフに話しかけられるじゃないですか。以前の原宿はそういった雰囲気があったんですよ。

――セントラルアパートのカフェで、コーヒー飲みながらクリエイターの人たちが話しているみたいな。

同じようなことがもう一度起きたら面白いんじゃないかなと思って。そのためにこのカフェスペースだけでなく、ベーカリーも含めてステップフロア(1つの階層に複数の高さのフロアが設けられた間取り)にしました。店内にいるお客さん同士、顔が分かりやすいような設計にしています。知り合いがいたときに、すぐに声をかけられるでしょ。

――なかなか珍しい設計ですがそんな意図があったのですね! 提供されるメニューの中で、宇一さんのおすすめのものはありますか?

もちろん全部おすすめですよ(笑)。このお店はドリンクが中心だから、シンプルなメニュー構成というより、どこか楽しい気持ちになるような飲み物をラインナップするよう意識しました。[V.A.]のコンセプトどおり、いろいろなシチュエーションでいろいろな人たちに楽しんでほしいから、選択肢も豊富に用意しています。強いてあげるのであれば、「カフェパリス」と「カフェブリテン」は特に飲んでほしいかな。

ミルクの上にコーヒーがセパレートし載せられた「カフェパリス」(左)、同じく紅茶が載った「カフェブリテン」(右)。目で見て楽しく、飲んで美味しいスイーツドリンク

 [montoak]が閉店してから、原宿周辺で自分の拠点のような場所を探していた人にこそ、今回生まれ変わった[V.A.]に来てもらえたら嬉しいです。[montoak]の時はカフェだけだったけれど、今はカフェに加えてショップとベーカリーもあるので、今までの3倍楽しさを提供できると思います。そうしてこのお店に足を運んでくれた人たちが混ざり合って楽しんでくれたなら。あぁ自分がお店をやってよかったな、意味があったなと思います。そういう状況にこれから実際に立ち会えることが、僕たちの楽しみであり、やりがいでもありますね。


V.A./
VAT BAKERY(バットベーカリー、2階)
東京都渋谷区神宮前 6-1-9 (Google map
WEB
IG @va.tokyo@vatbakery
営業時間 10:00-20:00
不定休

山本宇一|Uichi Yamamoto
1963年、東京都出身。都市計画や地域開発などのプランニングを経て、飲食業界に転身し、1997年に[BOWERY KITCHEN]をオープン。2000年以降は[LOTUS]や[montoak]といった人気店を手掛け、東京カフェブームの立役者となる。今までにプロデュースした店舗は約70軒。

インタビュー 成田峻平 (Interview by Shunpei Narita
文 菅野匠悟 (Text by Shogo Sugano)
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