
食の交換日記。
Japan #000 はじめまして
はじめまして。[P.O.S.T studio inc.]の盛岡絢子です。この連載を担当するにあたって、何を書こうかなぁとぐるぐるしている中で思い出したのが、大学時代の交換日記。小学校からの地元の友人で同じ高校に通っていた祐理子と私は、当時お互いが感じていることや考えていることを交換日記的にブログに綴っていました。
岡山で農学を学ぶ私と、コペンハーゲンで建築を学ぶ祐理子。あれから私は東京に、祐理子はロンドンに拠点を移して活動して、10年以上経った今またお互いの世界を見てみたい、そう思い、交換日記を始めます。
初回は絢子のターン!ということで、交換日記を始める前に、まずは自己紹介を兼ねて最近考えていることを書いていきたいと思います。
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農産物を中心とした商品開発やブランディングを行う食専門のクリエイティブスタジオを、友人2人と一緒に今年1月にスタートしました。
ここに辿り着くまでは、大学〜大学院で農学を学んだあと代理店で2年ほど広告制作に携わり、目黒に本店を構えるオーガニック食品を取り扱うグローサリーストア[FOOD&COMPANY]に6年半ほど在籍して、その間に日本全国の生産者や製造者、販売者の方と、ブランドづくりや商品企画、PR、そしてバイイングをしてきました。
目黒・学芸大学にあるグローサリーストア、[FOOD&COMPANY]。日本中の旬の食材が揃います。
大学〜大学院では、作物学で塩に弱いとされるイネの耐塩性について研究していました。一粒万倍、米は人の営みを支える興味深い作物です。
私のテーマは、自然との共生を実現するフードチェーンを作ること(と、それを支えること)。誰しもが持つタッチポイントである食を通して、特に都市部において、その適正な循環とバランスを生み出せないかと考えています。
自然界においては、本来外部から何かを与えられることなく成立する共生や調和的な均衡が存在しています。その均衡はいつも同じように見えて、常に、継続的に、発展し循環しています。しかし循環している中でも流れが滞ることはあり、それは不自然な状態なため、“開通”する作業が必要です。
大学の頃お世話になった岡山・備前の農家さんたち。凄腕の猟師でもありました。彼らも、開通作業を担う人間のひとり。
開通作業は、場面によってさまざまな生物が担います。微生物、動物、植物、時には人間も、まさに役割分担。手を取り合い繋がって、成立します。私自身その中のピースのひとつであって、現代の消費活動である「食べる」行為も、開通作業と考えることができると思っています。
今どこが滞っているのか、どうやって開通するのか。開通手段は伝統的でアナログな方法かもしれないし、AIなどのテクノロジーかもしれませんが、それ以上に大切な本質は、土の中、植物や動物の体の中、微生物=ミクロの世界にある、そう教えてくれるのは土そのものに向き合う生産者たちです。
長崎県島原の水田は、畔の部分の石積みが印象的。地域の資源が生み出す美しい光景です。
私自身はフーディでも舌の肥えた人間でもないので「美味しさ」について語ることは難しいですが(料理の腕は人並み以下)、“味わい”は産地の空気や温度、風土、そこに住まう生き物、食文化が最大限に反映されたものだと考えていて、農産物以外にも、例えば塩や醤油などを何十種類も一度に食べ比べると、その違いは素人目にもはっきりと感じ取れます。
食べるという行為は私たちの体をつくると同時に、たくさんの生き物たちの力を借りて成り立つことであり、さらには一個人の人生を超えた大きな大きな時間軸の中で未来をつくることにも繋がります。私は、そういう“味わい”のあるものとそれを活かす知恵が、未来に残って欲しいと願っています。
昨年訪れた京都北部・丹後半島にある上世屋地域。美しい棚田が広がります。秋の収穫時には圧巻の稲木干しをみることができます。
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大きな時間軸を持ちながらも一個人の人生を支えるのは食も建築もきっと同じ、ということで、祐理子にバトンタッチしたいと思います。また次回!
Illustration by Jonathan Bjørn Elley
- [P.O.S.T studio inc.][N.E.W.S project]主宰
盛岡 絢子 / Ayako Morioka
兵庫県神戸市出身。[P.O.S.T studio inc.][N.E.W.S project]主宰。
農産物をはじめとする食材にまつわる商品開発やブランディングを主軸に、産地を巡り生産者とともに未来の一次産業のあり方を考える活動を行う。日本のナチュラルワインや自然酒、焼酎などの液体を取り扱う[KIKI WINE CLUB]のコアメンバーとしても活動中。
IG @ayako_mrok
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