365日×竹本油脂 「あんゴマー」発売記念

杉窪章匡さんスペシャルインタビュー(前編)


PromotionPromotion  / Jul 24, 2019

人気ブーランジェリー[365日]と、300年近く搾油業に向き合ってきた老舗[竹本油脂]のコラボレーションにより完成したオリジナルのブリオッシュ「あんゴマー」が発売中だ。パンに含ませたごま油の量は、何と小麦粉に対して50%。この数字はパン作りの常識からするとありえないそう。アヴァンギャルドなチャレンジの裏には一体何があったのだろうか。[365日]オーナーシェフを務める杉窪章匡さんに、特別インタビューを敢行。

▲ ほのかに香る上品な香りと味が特徴の「太香胡麻油」をふんだんに使用した「あんゴマー」

—-「ごま油を作ってパンを作る」という話があった時に、まず最初に浮かんだイメージはどのようなものでしたか?

最初のイメージはごまの特徴をしっかり出すパンを作らなきゃというところです。一方でごま油をたくさん使うとなると、油の酸化との戦いになってきます。たっぷり油を入れても、酸化させることなく美味しいっていうのが一つのテーマ。ごま油のいいところ、風味だったり、しっとり感みたいなものは残しつつ、パンを作ることができればと思いました。

—-それでごま油をたくさん使う方向で進めることにしたんですね。

はい。だから単純なアプローチとしては、ごま油で揚げパンを作ってもいいわけじゃないですか。ただそれだとすぐに酸化しちゃうので。天ぷらとかって揚げたてだからいいのであって。

▲ [デュヌ・ラルテ]など、都内有名ベーカリーのヘッドシェフを務めたのち、現在は自身の店舗運営、そしてプロデュース業でも活躍する杉窪さん

—-揚げパンといえば、カレーパンとかもですよね。

カレーパン好きなんですけど、揚げたて以外はあまり食べないですね。うちはテイクアウトされるお客さまが多いので、どうしても食べてもらうまでに酸化が進んじゃうから、パンを揚げることは基本的にしないです。

—-それではごま油をたっぷり使いながらも、揚げない形でパンを作ることを考えたわけですよね。今回のコラボレーション商品の「あんゴマー」は、小麦粉に対して50%、約半分という割合でごま油を含ませていますが、このような割合でパンをつくることは可能なのでしょうか??

バターがそのくらいたっぷり入ったパンはありますけど、液体油脂でここまではなかなかないんじゃないですか。パンっていわゆるバターのような個体油脂を使うものと、オリーブオイルみたいな液体油脂を使うパンの二種類にわけることができます。個体油脂を使うものの代表は食パンとかブリオッシュとか。ブリオッシュには、だいたい40%から60%くらいのバターが入っていて。一方で液体油脂で作るパンって例えばフオッカッチャ。これがだいたい8%くらい。液体油脂をたくさん入れるパンってあんまりないんですよ。

▲ 期間限定商品である「あんゴマー」。大量に注文が入るシーンも見受けられた

—-液体油脂を大量に使うパンが一般的でない中、どのようなやり方で完成させたんですか。

完全にオリジナルの作り方なんですけど、卵を入れてあげることがカギです。液体油脂をたくさん含ませると、パンの生地が詰まっちゃって焼き上がりにくいんですね。でも卵を入れてあげると、パンが焼きあがる時に、卵の水分が蒸発することで生地が持ち上がるんです。そのことにより、油のせいで膨らみきらなかった空気の部屋が膨らむ。また卵が凝固することで、その膨らんだ空気の部屋を支える柱になり、しっかりと出来あがるんです。

—-パンに卵を入れることは多いのでしょうか。

入れることもありますけれど、今回のようなパンを作る時にはあまりない方法だと思います。何かを作るときに、今まであったものを真似して作る人が多いですけど、まかり通っている方法論を鵜呑みにするのではなく、理論的に「こういうものだ」と考えた上で、腑に落ちることが大事だと思っていて。ロジカルに考え出した自分のやり方を大切にしています。今回のケースであれば、例えば卵ひとつ使うにしても、卵黄だけなのか、卵白だけなのか、はたまた全卵なのか。最初はごま油の風味を生かすために、卵白だけでいこうと思ったんですよね。

▲ ごま油がたっぷりと含まれた生地、中の黒ごまペースト、パンの上部に散らされた白ごま・黒ごまなど、「ごま」の味わいを堪能できる一品

卵白と卵黄の違いですが、卵黄は味を増幅させるのに対して、卵白は増幅させる力はないけれど、もともと持っている素材の味をそのまま伝えることができるんです。今回はごま油の風味を生かすために、卵白でいこうと思ったんですね。でも卵白だけでパンを作った時に、思い描いてた食感にならなかった。そこで卵黄も加えることにした。卵黄にはレシチンという天然の乳化剤が含まれているからです。乳化させることで食感を改善させたくて。最初のアプローチとしては、味のことを考えて卵白だけを入れたけれども、食感をよくしたかったから全卵を使うことにしたんです。

—-とても論理的ですね。

そして全卵を使うことにしたら、ごま油が入る限界量も変わったんですよ。30%、40%だったのが50%入るように。風味も食感も、一層よくなっています。ものを作る時にはとにかく、自分の頭で一回理解することが大事で。つい伝統的なものや、常識とされているものがいいと思ってしまいますけど、僕は基本的に、昔の人がナンボのものだと思っているので。例えばその人が300年とか400年とか生きているなら、その年数だけ経験してますけど。実際に生きた年数自体は変わらないですからね。先人たちの経験則を単に鵜呑みにしないというか。「いやそのやり方は間違ってるよね?」ってことは結構あると思うんです。

—例えばどのようなことでしょうか。

目的とその解決策がマッチしていないことが多いと思うんです。一般的に正しいとされていることが、「失敗しない」ための方法論のことが多い。要はリスクを減らすためです。でも味の良さを求めるんだったら、それは違うよね、美味しくする作り方じゃないよねってことが多々ある。リスクを背負ってでも美味しく作ることってなんなのか。僕はそこが一番大事だと思うし、そのために必要なプロセスを常に考えたいんです。

インタビュー後編では、杉窪さんが考える理想のパン作りのあり方や、新商品を開発する上で大事にしていることなどをお届けする。

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